大富豪同人物語：Web連載版　２ｎｄシーズン

◆登場人物
ねじ子（主人公）
豪太郎（ねじ子の夫）
ぷぢ子（ねじ子の友人）
警官
コンビニの店長
テレビレポーター
ニュース番組司会
ニュース番組コメンテイター
ぷぢ子の店の客

○ねじ子のマンション・寝室
　夜。携帯テレビ電話で話しているねじ子。
ねじ子「え？帰国、延びちゃうの？」
豪太郎「うん、もうちょっと掛かりそうなんだ。悪いけど、来週中には帰るから」
ねじ子「約束がちがーう！」
豪太郎「ほんとごめんね。おみやげ、増やすからさ。それじゃ」
　電話、切られる。
ねじ子「むーっ！（むくれる）」

○ダイナマイト電器・雑誌コーナー
　朝。次々と入荷してくる雑誌を棚に入れるぷぢ子。
ぷぢ子「あーあ、今日は数が多くてたいへんだよ……お？」
　手に取ったサラリーマン向け週刊誌、表紙に
――今がチャンス！おたくバブルに乗り遅れるな！
――デキる男の”等身大”美少女フィギュア入門
――人気女性声優「秘蔵お宝写真！」一挙放出！
の見出し。
ぷぢ子「……オレ、毎日の残業でとうとうおかしくなったか？」
　別の梱包を解き、今度は女性週刊誌を取り出す。見出しは
――春のアニメ新番組、イケメン声優をチェック！
――秋篠宮眞子様、中等部ご入学記念「コスプレお披露目」グラビア集
――即売会で自慢したい！１５分でできる、お手軽弁当レシピ

ぷぢ子「ありえない！」
　雑誌をパラパラとめくり、裏返したところで手が止まる。
ぷぢ子「……ねじ子財団？」
　次々と手にとっては裏返すと、裏表紙にすべて「ねじ子財団」の広告。
ぷぢ子「（しわがれ声で）また、くだらないことはじめたな？」

○ダイナマイト電器・事務室
　昼。ひとりホカ弁をつつくぷぢ子。テレビでワイドバラエティ番組はじまる。
ナレーション「この番組は『ねじ子財団』と、ご覧の各社の提供でお送りします」
ぷぢ子「ぶーっ！（食べている物をすべて吐き出す）」

○テレビ画面
　レポーターが秋葉原を歩いている。画面隅、「ＬＩＶＥ」の文字。
女性レポーター（以下、レポ）「はい、こちら秋葉原、さわやかな春の陽射しが降り注いでいます。今までですね、秋葉原と言いますと、ま、マニアの街、おたくの街といったイメージが強くてですね、女性の方などはちょっと敬遠されてたんじゃないかなーと思うんですけどね、実際にこうして歩いてみますとですね、こんな風に割とおしゃれなブティックも並んでいるわけです」
　カメラ、レポーターが指さす方向に。

○事務室
ぷぢ子「ってオイ、それコスプレショップだろう！隣の同人ショップも丸見えだぜ！隠せよエロフィギュア！」

○テレビ画面
レポ「先ほどですね、こちらのお店で私、買い物してきたんですけどね」
　紙袋からマンガ雑誌を取り出す。
ぷぢ子「（画面の外からの声で）やめろ！思いっきり成年コミックだ！モザイクモザイク！番組終わらせるつもりか！」
レポ「（パラパラとめくって）あー、確かに女性の裸は出てくるんですが、いわゆるこう、いやらしい印象は受けませんね。むしろ健康な肉体美を描いている感じでして」
ぷぢ子「描いてねえよ！陵辱本じゃねえか！よく見ろよ！」
レポ「こちらの本もですね、主人公はかわいい女の子ばかりでして、えー、女性が手にとっても、ぜんぜん問題ありませんね」
ぷぢ子「問題だらけだよ！幼女モノだろう！」
レポ「以上です。スタジオどうぞ」
ぷぢ子「どうぞじゃねえよ！」

○ダイナマイト電器・アダルトゲームソフトコーナー
　一般のカップルが多数訪れ、渋い顔のぷぢ子（レジ係）。
ぷぢ子「まあ、お客さん来るのはいいんだけどさあ」
　カップルたち、みなタウン情報誌を手に棚を探す。裏表紙に「ねじ子財団」の広告。
ぷぢ子「大きな声で言えないけど……みなさん、騙されてますよ？（同じタウン誌を開いく。アダルトゲーム紹介ページ）
『美しい夏景色を舞台に
　ノスタルジックに描かれた
　哀愁のラブストーリー』
って、どっかで聞いた様なキャッチコピーだけど、あんた達が手に取ってるゲームに出てくる女、みんなパイパンですよ？処女だけど３クリックでマタ広げて、そこからあえぎまくりですよ？」
カップル「これ、ください！」
ぷぢ子「だから買うなよ！」
　同じ様なカップルが、レジに行列を作っている。
ぷぢ子「だからおまえら流されすぎだって！」

○ねじ子財団・本部
　官庁街にある高層ビル。「ねじ子財団」のプレートを挟んで、門の前に警備員。

○ねじ子財団・理事長室
　最上階、だだっぴろい部屋。電話で話しているねじ子（黒のスーツ姿）。
ねじ子「そう、あれ。反対記事バーンと載ってるでしょ。明日出る奴。訴えちゃっていいから。うん、差し止め。大丈夫大丈夫、地裁レベルで勝っちゃえばこっちのもんだから、うん。任せたわよ（回線ボタンを押して）あーはいはい、ねじ子財団。ええ、お話、お伺いしましたよー。正直申し上げてですね、まずいんですよ、お宅。次の即売会の話、ウチ通して押さえてないでしょ、会場。いやいや、強制なんてしません、ご自由にやってくださって結構ですよ。言論は自由なんだから。でも、あとあとトラブル起きたら面倒でしょ？最近はいろいろうるさいですからねえ。だからウチがお世話しようって、そういうお話ですよ……」
　ドアが蹴破られる。
ぷぢ子「てめーっ！」
　ぷぢ子、警備員に羽交い締めにされながら入ってくる。
　ねじ子、静かに受話器を置く。
ぷぢ子「話がしてえんだ」
ねじ子「（警備員に目線）お下がりなさい」
　警備員たち、部屋を出ていく。
ぷぢ子「どういう了見さ？」
ねじ子「……」
ぷぢ子「答えろよ」
　ねじ子、ぷぢ子に背を向けて窓の方を向く。
ねじ子「あなたにはわからないかもしれないわ。私の受けた屈辱は」
ぷぢ子「屈辱？」

○回想シーン・ねじ子の寝室
　ファーストシーンの続き。
豪太郎「ほんとごめんね。おみやげ、増やすからさ。それじゃ」
　電話、切られる。
ねじ子「むーっ！（むくれる）」
　電話を終えたねじ子、少し怒った様子で家を出ていく。

○ねじ子のマンション・エレベータ
ねじ子「やけ食いしてやる！顔の形が変わるくらい太ってやる！」

○コンビニ
　スナックの棚をあさる、ねじ子（スウェット姿＋ひっつめ髪＋眼鏡）。しばらくすると周りに客がいないことに気がつく。
ねじ子「？」
　ドアが開き、店員に連れられて警官が入ってくる。客も全員、店の外に出て様子を見ている。
店員「こ、この人です！」
警官「ちょっと失礼」
　書類を取り出し、ねじ子と見比べる警官。
ねじ子「な、なんですか。やめてくださいよ」
警官「すぐ済みますからね。住所氏名、年齢をどうぞ」
ねじ子「職質？」
警官「すぐ済みますから」
　ねじ子、財布から免許証を出す。
警官「こちら、ご本人？」
ねじ子「そうですよ」
　無線で連絡を取る警官。
警官「あーはい、了解。秋月さんの奥様でしたか、失礼いたしました。もう結構です、ありがとうございました」
ねじ子「なによー、感じ悪いわねえ」
警官「実は、こういった手配書が来てまして」
ねじ子「手配書？」
　警官、書類を見せる。服装はねじ子そっくりだが、かなり太った女性の似顔絵が描かれている。備考欄に
――連続釣り銭詐欺／４０代半ば／一見”おたく”風／伏し目がち
ねじ子「これがあたしかーっ！タテヨコ比間違えとるやんかーっ！」
警官「だ、だから違うって言ったじゃないですか」
ねじ子「最初は疑ってたやんかー！」
　警官、「キレやすい」のコメントを書き加える。

○ねじ子財団・理事長室
ねじ子「私は復讐を誓ったのよ。オタクをバカにする社会に」
ぷぢ子「お前がバカじゃねえのか？」
ねじ子「何とでも言うがいいわ」
ぷぢ子「言う気も失せたよ」
ねじ子「あなたも同志にならない？その方が豪太郎さんも」
ぷぢ子「喜ばないと思うぞ？だいたいそれがきっかけにしたって、いくらなんでもやりすぎだろう（雑誌の裏表紙を見せる）」
ねじ子「……やっぱり？」
ぷぢ子「わかってんじゃねえかよ」
ねじ子「ぜんぜん、つまんないのよ」
ぷぢ子「思い通りになったんじゃねえのかよ。誰もオタクをバカにしない、素敵な世界が出来あがってさ」
ねじ子「違うの。マンガを読んでも、アニメを見ても、同人誌を描いても、ぜんぜんつまらないのよ」
ぷぢ子「そうか？」
ねじ子「そう。私、わかったの。社会から白い目で見られて、バカにされて、理解されないっていう環境がないと、マンガもアニメもゲームも同人誌も、ぜんぜんつまんない」
ぷぢ子「だろう？」
ねじ子「うん。だからやめるの。こんなことは」

○ねじ子のマンション・リビング
　夜。ごろ寝、マンガ雑誌を開きながらテレビ（ニュース番組）を見ているねじ子。
司会「というわけでですね、最近の秋葉原は電気街という言葉がちょっと似つかわしくないというか……まあぶっちゃけ、ずいぶんとエッチな街になってしまいまして、私のようなオジサンには寂しい限りなんですが」
女性コメンテイター「（成年コミックを手に取りながら）ちょっと、病的ですよね。読み手も描き手も、病んでるなあって印象を受けました。直接原因があるとは言い切れないですけど、最近の事件にいろいろと影響がありそうですね」
　ねじ子の携帯電話が鳴る。
ねじ子「豪太郎さん？」
豪太郎「ああ、こんばんわ。まだ起きてた？」
ねじ子「うん」
豪太郎「会議が予定より早く終わったんで、これから帰るよ。明日中には着くと思うから」
ねじ子「うん、待ってる」
豪太郎「なにか、そっちで変わったことはなかったかい？」
　ねじ子、テレビを見て
ねじ子「うん、なにも。なにも、変わってない。そのままよ」

（２００４年４月１１日、２００字×２７枚 ）