大富豪同人物語：Web連載版　２ｎｄシーズン

◆登場人物
クリス（豪太郎の妹）
ねじ子（主人公）
豪太郎（ねじ子の夫）
ぷぢ子（ねじ子の友人）
等々力（クリスの教育係、兼運転手）


○ねじ子ののマンション・キッチン
　日曜、昼。納豆パスタを作っているねじ子（エプロン姿）。
ねじ子「♪〜（未唯「NEVER」を口ずさんでいる）
　電話が鳴る。

○ねじ子のマンション・リビング
　テレビを見ていた豪太郎（パジャマ姿）が電話を取る。
豪太郎「はい、秋月ですが」
等々力「ああよかった、豪太郎坊ちゃん。私です、直樹です」
豪太郎「直樹さんですか、いやあご無沙汰して申し訳ありません。どうですか、そっちの様子は」
等々力「いたって変わりありません……クリス様をのぞいて」
豪太郎「あいつ、また何かおかしな事を始めましたか？」
等々力「おかしいと言いますか、その」
豪太郎「ねじ子さんみたいになったとか？」
等々力「さすがにそこまでは申しませんが、差し支えなければ、これからこちらに来ていただいて、ちょっとお話をお願いできませんでしょうか」
豪太郎「……わかりました。お昼を食べたらすぐ行きます」
等々力「お待ちしております」

○リビング
　納豆パスタを食べる二人。やたら粘るパスタに
豪太郎「ちゃんとお豆、洗った？」
ねじ子「なに言ってるの、この粘りけが体にいいのよ」
豪太郎「そうなんだ」
ねじ子「そうよ、だからシシトウとオクラと山芋も入れてみたわ」
　あらためて皿を見る豪太郎。
豪太郎「（淡々と）あー。やっちゃったんですね」
ねじ子「なによぉ」

○文京区・秋月家
　庭に車を止める豪太郎（スーツ姿）。ねじ子（フリルつきワンピース姿）、助手席から家を眺めて
ねじ子「こんなお屋敷で暮らしてた人が旦那様だなんて、まだ信じられないわ」
豪太郎「マンガみたいだろ？」
ねじ子「うん。別フレ系っぽい」

○秋月家・玄関
等々力「すみません、お休みの日に」
豪太郎「構いませんよ」
　先を行っていたねじ子、
ねじ子「クリスの部屋って、ここだっけ？確か洋間だったよねえ？」
　そう言いながらふすまを開ける。

○秋月家・クリスの部屋
ねじ子「うわーっ！」
　すっかり和風に改装されたクリスの部屋。壁に「誠」の旗が貼ってある。囲炉裏（いろり）の前で刀を抱え、座っているクリス（髪の毛を後ろで縛り、新撰組の隊士服姿）。
クリス「（低めの声で）どうした？」
ねじ子「（声にならない叫び）」
豪太郎「（ねじ子の後ろから部屋を眺めて）っと……かなり思い切ったリフォームだな」
等々力「わたくし共も止めたんですが、ご自分で柱を切り始める始末でして、その…仕方なく業者を」
豪太郎「ねじ子先生、ご診断を」
ねじ子「『なりきり厨』だわ」
豪太郎・等々力「『なりきり厨』？」
ねじ子「作品に没頭するあまり、作中の人物になりきっちゃう事。軽いものだとしゃべり方や仕草を真似るくらいで済むけど」
豪太郎「ああ、『ごっこ遊び』だね」
ねじ子「子供の時にそういうのに熱中できなかったサメた子に限って、えてして十代半ばぐらいからやっちゃうわけよ、こういうの」
等々力「リフォームまで？」
ねじ子「それは滅多にないと思いますが」
豪太郎「あ、そうか。テレビドラマか。女の子にしては珍しくないかい？」
ねじ子「幕末物は、自分になぞらえて見る人が多いし」
豪太郎「そうだ、例のヤン社長も幕末物をよく読んでるんだよなあ」
ねじ子「あの人、華僑でしょ？」
豪太郎「商談の時、話がはずむんだってさ」
ねじ子「（苦々しげに）そういや、ＯＬやってた時の上司も好きだったなあ。事あるごとに講釈を垂れてたけど、中小企業の係長と幕末の志士じゃあ格が違いすぎで」
クリス「なぁにをごちゃごちゃと！くだらん話し合いなら余所でやってくれ！」
ねじ子「じゃあ、ちょっと話をさせてもらうわね」

　一同、囲炉裏の周りに座る。

クリス「短めに頼むぞ」
豪太郎「男言葉だ」
ねじ子「『ボク』って言い出さないだけ、マシ」
豪太郎「そうなんだ……ところで、誰になりきってるつもりだい？」
クリス「特に誰というわけじゃないが、強いて言えばオリキャラかな」
ねじ子「あいたたたたた」
クリス「あんたもいちいち、うるさい人だなあ」
ねじ子「ひょっとして、ほんとうは女性なんだけど、男装して入隊してるとか？」
クリス「そう。腕前が確かだから、近藤さんが認めてくれたの」
　豪太郎、失笑する。
等々力「新撰組にそんな人、いたかな」
ねじ子「マンガに似たような話がありますけど……ちょっと質問です」
クリス「なんだ？」
ねじ子「新撰組のメンバーをできるだけ挙げてください」
クリス「（急に地に戻って）えーとね、……近藤さんに土方さんに総司に勇にトシに沖田君に山本太郎……」
ねじ子「ダブってる！しかも最後のは誰？」
クリス「こ、これから覚えるのよ！」
ねじ子「あのねえ、だいたい攘夷思想にラテン系ハーフ少女があこがれてどうすんの？外国人排除だよ？京に着く前に、生麦辺りで斬られちゃうよ？」
クリス「え、江戸じゃなくて、京都でスカウトされるの」
ねじ子「スカウトねえ…どんな風に？」
クリス「んと、出島のオランダ商館に売られてきた美少女が京都まで逃げてきて……」
ねじ子「無理すぎる！同人誌でも無理だ！」
クリス「（逆ギレして）ええい、問答無用！」
豪太郎「あぶない！」
ねじ子「なんの！」
　クリス、ねじ子に斬りかかるが簡単に刀を奪われ、逆に胸元に突きつけられる。
等々力「お見事！」
豪太郎「さすが初段だなあ」
ねじ子「なりきって刀なんか振り回す前に、まず自分を磨きなさい。わかった？」
クリス「（うなだれて）……はーい」

○秋月家・玄関
等々力「いや、助かりました。一時はホントどうなる事かと」
クリス、隣で頭を下げる。
ねじ子「まあこの子の年頃は、ただでさえ不安定ですからね」
豪太郎「また何かあったら、遠慮なく呼んでください」
等々力「はい」
豪太郎「それじゃ、失礼います」
ねじ子「んー、ちょっと待って。なんか一つ忘れてた気が」
豪太郎「なんだい？」

（ＳＥ）ねじ子の携帯から、大河ドラマ「忠臣蔵」のテーマが鳴り響く。

豪太郎「討ち入り？まだ春だよ？」
ぷぢ子「どっせーいっ！」
　掛矢（かけや）でドアを叩き破り、中に入ってくるぷぢ子（討ち入り装束）。
ねじ子「そうだった、元『なりきり厨』から説教してもらおうと思って、呼んでたんだった」
ぷぢ子「いくらベル押しても誰も出て来ねえから、勝手に入ってきたぞ！しかし、この衣装はあっちーなあ」
豪太郎「悪い悪い、もう話は片づいたよ」
クリス「ぷぢ子さん、忠臣蔵おたくなの？」
ぷぢ子「うーん、どっちかって言うと『清水一学』萌え」
等々力「お、渋いですな。私なんかですと、近衛十四郎のやつですかね」
ぷぢ子「やっぱオレはニッキだな。『オレの愛する浪士はなぜーっ！』」
ねじ子「言ってない、言ってない」

（２００４年３月１３日、２００字×１９枚 ）