大富豪同人物語：Web連載版　２ｎｄシーズン

◆登場人物
ヤン社長（ＩＴ関連企業の社長）
比須田（ヤンの秘書）
レオン（豪太郎の一方的な友人）
ねじ子（主人公）
コールセンターのオペレーター
本社受付の女性
客
ナレーション（男性、女性）

○月曜、朝
　オフィスビル１フロアをぶち抜いて設置されたコールセンター。オペレーター達が切れ目なく掛かってくる電話に応対中。
オペレータ「はい、『お客様のデータはがっちりガード』でおなじみの、ヤン・グランドカンパニー、カスタマーセンターです」
客「バカヤロー！お前んとこからデータが漏れたせいで、こっちは大迷惑なんだよ！」
オペレータ「恐れ入ります、どういったご用件でしょうか」
客「近所の連中が、オレの噂ばかりしている！電車に乗っても周りがオレの話ばかりしている！テレビや新聞も、オレのニュースばかりやってる！ぜんぶお前んとこのせいだぞゴルァ！」

○ヤン・グランドカンパニー本社ロビー
　フロアに行列。性別、服装はまちまち。
受付嬢「４８番の方どうぞ〜」
　客（オタっぽい服装）、のっそりとカウンターへ。
受付嬢「ディスクの内容を確認しました。住所・氏名・電話番号が４０万人分で、４０００円になります」
客「（ねちっこく）えー、たったそんだけ？」
　受付嬢、買い取り表を取り出して
受付嬢「（淡々と）クレジットカード番号があれば、もう１ランク上になるんですが」

○秋葉原
　雑居ビルの３階。階段脇に古びた木のドア。「レオンハルトなんでもコンサルタント」の手書きプレート。
　コンクリートがむき出し、ほこりだらけの室内。調度品は古びた机とソファ、テレビ。壁には無意味に世界地図が貼ってある。窮屈そうにソファに座るヤンと比須田（スーツ姿）。向かいの席にレオン（Ｔシャツにジャケット）。
比須田「（落ち着かない様子で）というわけで、例の事件以来、そのー、我が社のイメージがですね」
レオン「（足を組んで）私もニュースで拝見しております。事情があるとは言え、今は一刻も早く、信頼を取り戻すべきです」
ヤン「（いらだたしげに）そんな事は百も承知だよ。具体的なアイディアを出したまえ」
比須田「（小声で）だからこんな得体の知れないところはやめましょうって」
ヤン「私に意見する気かね？」
比須田「いえ、それは……」
ヤン「この男は単なるコンサルタントではないぞ。あのアキヅキを知り尽くした男だ」
レオン「ええ。私（わたくし）、秋月社長とは個人的につき合いもありまして、出来る限りのアドバイスをさせていただきます」
比須田「（ひとりごと）全部、自己申告じゃないか……」
レオン「（聞いてない）さ、それではご覧ください」
　テレビのスイッチを入れるレオン。

○テレビ画面
　数字のカウントダウンに続いて、ヤン社のロゴ。
（ＳＥ）ヤン社・社歌
　社内の風景、各部署で生き生きと働く社員たちのカット、インターネットを楽しむ客の姿が続く。最後に本社をバックに、笑顔のヤン社長のバストショット。
男性ナレーション「今日の技術を明日につなげる、ヤン・グランドカンパニー」

○室内
レオン「これが以前、御社で作られたイメージビデオですね」
ヤン「そうだ」
レオン「うーん、よく言えば無難、悪く言えば平凡なんですよ」
ヤン「そうかね？」
レオン「インパクトがないんですよ〜。ガツーンと来る何かが」
ヤン「どうしたらいいと思う？」
レオン「ご安心を。サンプルをいくつかご用意しました」

○テレビ画面
（ＳＥ）ヤン社・社歌（７０年代特撮ドラマ風にアレンジ）。
　先ほどと同じ様なシーケンスだが、カットがひんぱんに変わって目まぐるしい。最後のヤン社長のシーンにかぶせて
男性ナレーション「人類のコミュニケーションのため、リチャード・ヤンは今日も戦うのだ！」

○室内
レオン「とりあえずサンプルの１つですが、いかがでしょうか」
ヤン「おー、これだよこれ。私が望んでいたのは」
レオン「ありがとうございます。続きまして」
比須田「（小声で）地方局でやってるＣＭみたいだなあ……」

○テレビ画面
　以下、アニメーション映像で。
（ＳＥ）社歌アレンジ（インストゥルメンタル）
　宇宙空間に浮かぶ地球。
男性ナレーション「人類がインターネットを楽しむ様になって、すでに３０年が過ぎていた……」
　どこか郊外の風景。少年時代のヤン（上下ジーンズ）が歩いていると、とつぜん爆発が起きる。巻き込まれて吹っ飛ぶヤン。
ヤン「ううっ……」
　起きあがるとかたわらに、モデムが落ちている。点滅するランプを見て、拾い上げるヤン。
ヤン「こいつ、動くぞ……やってみるさ！」

○室内
　ゲラゲラ笑い転げているレオン。
ヤン「（怪訝そうな顔で）どこがおもしろいんだね？」
レオン「わはははは……あー、失礼しました。これはちょっとマニアックでしたね」
ヤン「さっきのより、ずいぶん丁寧に作ってないか？」
レオン「気のせいですよ。じゃ、次のやつ行きましょう」

○テレビ画面
（ＳＥ）バロック風のイントロに続いて、甲高い女性ボーカルで社歌
　ギャルゲー風のタッチで描かれた少女が、媚びたポーズを取る。右下に「ヤンたん」のテロップ。その後、いろんなコスチュームでネットを楽しむ「ヤンたん」のカットが続く。

○アニメショップ「マニアメイト」横浜店
　開店準備中のねじ子。店内のモニターで流れる「ヤンたん」のプロモーションＣＭ。最後にカメラ目線になって
ヤン本人「ヤン・グランドカンパニーは、今日もあなたのアクセス待ってるやぁあん！」
　ねじ子、モップがけの手を止めてモニターに振り返る。
ねじ子「……バッカじゃないのこの会社！」

○開店後のマニアメイト
　フィギュア、イメージＤＶＤ、マウスパッドなど「ヤンたん」グッズを買い求める客が殺到。ねじ子、レジでさばきながら
ねじ子「いい加減飽きろよ、お前らも！」
　レジの客、チラシを差し出して
客「あー、今度『ヤンたんオンリーイベ』やるんですけど、チラシ置いてもいいですか？」
ねじ子「帰れバーカ！」

（２００４年３月１４日、２００字×１６枚）
（２００４年３月１５日　加筆修正）