大富豪同人物語：Web連載版　２ｎｄシーズン

◆登場人物＆キャスト
ねじ子（主人公）…三石琴乃
ぷぢ子（ねじ子の友人）……林原めぐみ
イリア（ねじ子の夫、豪太郎の秘書）……榊原良子
真理子（ジオテック社開発統括本部長）……勝生真沙子
ウェイター

○土曜、夜
　都内サッカーカフェ「オフサイド・トラップ」。テーブル席でふてくされた表情のねじ子、ぷぢ子。突っ伏しているイリア。空になったジョッキを掲げ、ボーイを呼ぶねじ子。
ねじ子「オーイ、ナマダイ追加ーッ！」
　ウェイター、おびえた表情でやって来る。
ウェイター「銘柄はなんにいたしましょう？」
ねじ子「オリオンでもカールスバーグでもバドワイザーでもなんでもいい、キリン以外だったらなんでもいい！」
ウェイター「それでは御殿場高原ビールなどいかがでしょう」
ねじ子「おう、ソレ持ってこーい。静岡の酒、サイコーッ！」
　オーダーを聞いたウェイター、厨房側に振り向くと笑顔が一転して渋いツラ。そのまま歩いていく。
ねじ子「ったくったくったく（だんだん声が大きくなっていく）ったくよーッ！」
ぷぢ子「わかったから大きな声、出すな。酒どころか飯までまずくなる」
ねじ子「これが叫ばずにいられますかってんだ」
ぷぢ子「じゃあオレ様も叫ぶ！」
ねじ子＆ぷぢ子「（肩を組んで）ウォーッ！ウォーッ！監督やめねえ納得いかねえーっ！」
ウェイター「ビールお待たせいたしました」
　テーブルに置かれるビール。逃げるようにして去っていくウェイター。イリア、顔を上げて
イリア「あたしも交ぜてもらっていい？」
ぷぢ子「お、なんでい、開催国ドイツ様は無条件出場じゃねえかよ」
ねじ子「そーよそーよ、これは『日本代表監督納得いかない同盟』なんだから、ドイツ代表は関係ないじゃない」
　イリア、大げさなハンドアクションをまじえて
イリア「関係おおあり！だいたいあたしだって人生の半分以上ここで育ってるんだから、気分的には活躍してほしいわけよ、ドイツ戦以外は。それなのにあんな戦略も戦術も規律もへったくれもないチームを作られちゃ見てられないわよ！これからも似たような試合運びが続く様じゃあ、はっきり言って生理も遅れる！」
ぷぢ子「おー！言え言え、もっと言え！」
イリア「それだけじゃない！日本のサッカーがつまらないと、サッカーゲームが売れないの！サッカーゲームが売れないと、ジオテックの業績が確実に下がるわけ！子会社の危機は、親会社にとっても確実に危機！」
ねじ子「あー、それがあったかー。でもジオテックって、そこまでサッカーゲームに頼ってたっけ」
ぷぢ子「昨年のジオ売り上げナンバー一位」
ねじ子「それじゃあ心配だよね」
ぷぢ子「でもさ、現実が厳しいからゲームに逃げるって手合いもいるんじゃない？」
イリア「ではこのゲームソフトをご覧ください」
　イリア、ゲームディスクの入ったパッケージを取り出す。
ぷぢ子「うわっ、ジャケットに監督のツラが！」
イリア「さいわいというか、ウチのじゃないんだけれど、まさかここまでダメオーラが漂っちゃうなんて、担当の人は頭抱えてるんじゃないかしら」
ねじ子「そういえば新作のＴＶＣＭ、あんまり見ない気がするなあ」
イリア「監督に限らないけど、イメージぶち壊しなキャラはお・こ・と・わ・り、なわけよ」
ぷぢ子「うーん……そうだ、この際だからエビちゃん呼ぼうぜエビちゃん」
ねじ子「あの人、サッカーわかるの？」
イリア「わかるというか……とにかく呼べばわかるわ」
　携帯を取り出すイリア、海老沢に電話。
ぷぢ子「おーい、こっち冷やねえぞ」

○場面暗転、明るくなると同じテーブル席に真理子。ゴスロリ風ワンピース着用。メイクや髪型もかなり力を入れている。その様子を見て
ぷぢ子「ありえなーいっ！」
真理子「呼び出しておいてそれかい」
ぷぢ子「だってなー。土曜の夜に、そんな服着て目の前で酒飲まれてもなー」
真理子「やっぱり、ワンピースの良さがわからない人は劣性遺伝子の持ち主なのよ。そうよね、ねじ子さん」
ねじ子「合ってるのかなあその例えは」
真理子「私は優勢のみを受け継いだのよ」
ねじ子「だからそれ違ってるって」
真理子「え？ゲームでそう言ってたわよ？」
イリア「（ぜんぜん流れを気にせず）とまあ、こんな風に極端なところに走ってしまうのが、真理子お姉さまの特徴なわけですよ」
真理子「悪かったわね。で、なに？サッカーカフェなんか呼び出しても私、ぜんぜん話に乗れませんからね」
ぷぢ子「いや、それはないね」
ねじ子「どうして？」
ぷぢ子「オレはサッカー同人で育った！だからサッカー好きかそうかは、匂いでわかる！」
真理子「（少しうろたえて）な、なにを言うのよ」
ぷぢ子「コイツからはサッカー好きの匂いがプンプンするぜ！それもミーハーくさいやつだ！サッカーをぜんぜん知らないって？違うね！」
真理子「だから知りませんてば！」
ねじ子「（ぼそりと）じゃあ、ジーコ更迭論についてひとこと」
真理子「（急に真顔で）そりゃまあ経験不足から来る落ち度はいろいろあるだろうけど、やっぱり今のＪリーグがあるのは彼のお陰なんだから、なんとか穏便な方法で解決を」
ねじ子「うわ、やっぱり！普通３５歳独身ＯＬさんは、ジーコがＪリーグの立て役者だったなんて覚えてませんよ？」
真理子「しまった！」
ぷぢ子「ふふん、わかったぞ。これでどうだ」
　ぷぢ子、携帯を取り出して着メロ（WE ARE THE CHAMP）を流す。
真理子「やめて〜思い出しちゃうからやめて〜」
　耳を押さえて苦しむ。
ねじ子「ミサンガ」
真理子「きゃーっ」
ぷぢ子「アルシンド」
真理子「ひゃーっ」
ねじ子「Ｊリーグカレー」
真理子「うぐーっ」
　ねじ子とぷぢ子、顔を見合わせて
ねじ子「きっとその頃つきあってた男かなんかに誘われて」
ぷぢ子「プラチナチケット渡されて試合行ってたわけだ！トイレでフェイスペインティングして」
真理子「（小声で）……してました」
ねじ子「意外に海老沢さんて、ミーハー？」
真理子「で、でもオフサイドのルールは覚えたわよ！」
ぷぢ子「じゃあ許す。つーか、こんな人が開発の上にいて、今年のサッカーゲームは大丈夫なのか？」
イリア「まだ秘密なんだけど」
　バッグから書類を取り出す。
イリア「これ、プレゼンで出された新作の企画書ね」
真理子「あーそれ、まずいですって」
ぷぢ子「なになに……『日本代表監督をつくろう！』なんじゃこりゃ」
ねじ子「つくるの？代表監督になるんじゃなくて？」
真理子「ゲームの初めに、プレイヤーが日本サッカー協会の会長に任命されるのよ」
ぷぢ子「キャプテンね（笑）」
真理子「それからスポンサー回ったりマスコミと仲良くしたりケンカしたりしながら、Ａ代表とＵ−２３の代表人事をすんの。で、後はそれをサポート。国際親善試合を組んだりキャンセルされたり。それでＷ杯に進めればスタッフロールが流れて、本大会で負けても次の監督を選べるの。でも一次予選敗退だと、その時点でゲームオーバー」
ねじ子「微妙におもしろそう……っていうか客層狭すぎない？」
ぷぢ子「オレやりたいよ！すごくやりたいよ！カーニバル見たいからって国に帰っちゃうブラジル人出てくる？アッサリ切って捨てたいよ！」
ねじ子「ヒデェ〜ッ！」

（２００４年１月２５日、２００字×１８枚）