大富豪同人物語：Web連載版　２ｎｄシーズン

第14話「ボーナス！ボーナス！」
○月曜朝。社長室に入る豪太郎。
豪太郎「おはよう」
イリア「おはようございます」
豪太郎「あれ、テーブルの花」
イリア「換えておきました」
豪太郎「ありがとう。綺麗なアレンジだ。香りもいいね」
イリア「恐れ入ります。ところで社長……」
豪太郎「なんだい？」
イリア「今度の水曜日、申し訳ありませんが早めに上がらせていただけますでしょうか」
豪太郎「ちょっと待ってくれ……ああ、会議が６時まであるから、それが終わったらでいいかな」
イリア「ありがとうございます」
豪太郎「そうか、水曜はボーナスの日だったね。みんな、いろいろと予定があるんだろうなあ」
イリア「そうですね」
豪太郎「そうだ、ねじ子さんにも約束してたんだ、新しい服を買ってあげるって」
イリア「よろしいのですか、私だけ早く帰っても」
豪太郎「大丈夫、終わってからでいいってさ」
イリア「原稿……ですね」
豪太郎「ああ。部屋が散らかり始めると、今年ももうすぐ終わりって感じだなあ」
イリア「（……不憫すぎる。ううっ。）」

○アキヅキ本社１Ｆ
　黒いコートにサングラスとマスク姿の女が入ってくる
受付嬢「いらっしゃいませ」
女「じ、人事部はどこ」
受付嬢「どなたとお約束ですか」
女「え、えーと、人事部長と」
受付嬢「部長ですね……失礼ですが、お名前は」
女「ね、根本です」
受付嬢「いえ、部長の名前です」
女「……人事五郎さんです」
受付嬢「少々お待ちくださいませ」
　電話を掛け、人事部に確かめる。
女「チッ、かくなる上は！」
　受付にある案内図を奪い、エレベーターホールに走っていく。受付嬢、すばやく手元のスイッチを押す。
受付嬢「警備部、受付に早く！（女に向かって叫ぶ）止まりなさい、もうエレベーターは１階には来ないわよ！」
女「滑舌悪いなあ、そんなんじゃ止められないよ！」
　女、階段を駆け上がる。
女「（案内図を見る）人事部は…１５階？別の変装で忍び込めば良かった！」

○人事部前、廊下
　警備員が詰めかけ、ものものしい雰囲気。騒ぎを聞き、豪太郎も来ている。
豪太郎「どういうことだろうね」
人事部長「心当たりは全くないんですが……」
豪太郎「退職した社員かもしれないな。まずは賊を捕まえよう。頼むぞ」
警備員Ａ「はいっ」
警備員Ｂ「（イヤホンで情報を聞いている）賊がフロアに来ました」
警備部長「取り押さえろ」
　間もなく息も絶え絶えの女が階段から登場。警備員たち、飛びかかる。
女「うわーっ！」
警備部長「観念するんだ、話はそれから聞いてやる」
女「いやだーっ！」
豪太郎「ん？ちょっと待った！」
　全員、動きを止めて豪太郎を見る。
豪太郎「あとは僕が話を聞こう。人事部長と警備部長だけ残って、他は仕事に戻ってくれ」
警備部長「よろしいのですか」
豪太郎「ああ、すまないが」

○社長室
　コートの女、椅子を勧められるが立ったまま。人事部長と警備部長、戸惑いの表情。
豪太郎「さあ、正直に白状するんだ。なんであんなことをしたんだい」
女「……」
豪太郎「黙ってちゃわからないよ、ねじ子さん？」
人事部長＆警備部長「ええっ？」
　女、サングラスとマスクをはずす。
ねじ子「だって、だって……」
豪太郎「だってじゃありません。どれだけの人が迷惑したと思ってるんだい」
ねじ子「だって、豪さんのボーナスがちゃんと出るか、気になったんだもん！」
豪太郎「ボーナス？」
ねじ子「そう。新聞見たら、業績が不振だって」
豪太郎「ああ、確かに去年よりは落ちているけどね。下方修正からは大きく外れてないから、そんなこと心配しなくていいんだよ」
ねじ子「でも人事部の査定が悪かったら、お給料下げられちゃうんでしょ？」
豪太郎「だからって、部長に問いただすことないだろう」
ねじ子「でも……」
人事部長「失礼ですが奥様……社長の査定は私ではなくて、株主が決めるんですよ」
ねじ子「そうなの？」
人事部長「すでに総会で承認を得ていますから、余程のことがない限り今年の減俸はありません。それに、もともと社長にはボーナスが出ないことになっています」
ねじ子「ひどい！来年の総会には私も出る！」
人事部長「いえ、年俸を月割りで１２回に分けて支払うことになっておりまして、そこにはあらかじめボーナス分も含めた額が入っているのです」
ねじ子「……ええーっ？それじゃ私の」
人事部長「はい。勘違いですね」
ねじ子「……」
豪太郎「説明ありがとう。わかったかい？」
ねじ子「……うん」
豪太郎「本当ならお仕置きとして、全社員に土下座物なんだけど……」
ねじ子「うわーんっ」
警備部長「社長、ちょっとお耳を」
豪太郎「……なるほど。人事部長がそれでよければ」
人事部長「私も異存ありません」
豪太郎「決まりだな。今日一日、ちょっとアルバイトをやってもらうよ」

○正午、アキヅキ社員食堂
　白衣に頭巾姿のねじ子（素顔バレ防止にいちおう眼鏡着用）。
ねじ子「すごいなあ、本格的レストランみたい」
豪太郎「じゃあ、ちゃんと配膳をやるんだよ。一人で」
ねじ子「……はーい」
　豪太郎、食堂入り口へ。集まってきた社員達に向かって行く。
社員達「社長、お疲れさまです」
豪太郎「みんな聞いてくれ、今日は僕のおごりにするから、好きな物を頼んでいいぞ」
社員達「やったーっ！」
ねじ子「ええーっ！」

○大にぎわいの社食。てんてこ舞いのねじ子。
ねじ子「はい、ロコモコセットお待たせしましたー！」
イリア「おばさん、遅いわよ。それに大盛り頼んだのに普通盛りじゃない。ちゃんとしてよ」
ねじ子「くーっ！わかっててやってるわね！」
イリア「もちろん」
ねじ子「ちくしょーっ！」

【配役】
受付嬢：白石美帆
人事部長：二又一成
警備部長： 玄田哲章

（２００３年１２月７日、２００字×１６枚）