大富豪同人物語：Web連載版　２ｎｄシーズン

○日曜朝、ねじ子の家、ベランダ
　洗濯物を干すねじ子。
ねじ子「うわ〜秋晴れ、空がたかーい！こんな日はそう……ネーム日和ね！冬コミの本、今から始めたらチョー余裕で入稿間違いなし！『ちょっとたいへんだったけど、コピー本作っちゃった』とか、今年こそ自慢げに言いたいから、めずらしく朝ご飯作らないでがんばっちゃいまーす、と」

○リビング
　サンダルを散らかしてリビングに上がるねじ子。雑誌や菓子の袋でいっぱいの、自分の机の上を片づけながら
ねじ子「♪フフーンフーンフーン〜土曜の朝からパンツ丸見え下品なトクサツ〜茶髪の巫女なんてありえない〜やっぱりアニメは越えられない〜（鼻歌）」
　豪太郎、起きてくる
豪太郎「おはよう、ねじ子さん。今日の朝ご飯は？」
ねじ子「（背中を向けたまま、首をまわす）ゴーハーンーだーとー？」
豪太郎「き、今日は僕の番だったね。パンケーキでも作ろうか、な…」
ねじ子「♪ときメモガールズサイドのコンサート〜終わった後、『このままクリスマスはオッキーと過ごしたかったデース！』〜なんて激痛カキコが目に見える〜」
豪太郎「（つぶやき）いつも思うんだけど、この芸風どこで覚えてくるんだろう？」

○キッチン
パンケーキを焼く豪太郎。一方、早くも煮詰まっているねじ子。
豪太郎「できたよ〜」
ねじ子「……」
豪太郎「早くしないと、冷めちゃうよ」
ねじ子「……む」
豪太郎「たいへんだね、今年も」
ねじ子「……ん」
豪太郎「先に食べるけど、終わったら僕、ちょっと出掛けてくるね」
ねじ子「そうして。悪いけど」

○リビング。１人でパンケーキをほおばる、ねじ子。後ろでテレビの音。
ねじ子「またこれが美味いから、やんなっちゃうのよね……（テレビの音がリビングに響く）……小人閑居して、なんだっけ。ええい、気分転換に出掛けるか。つっても、下の階行くだけなんだけどさ」

○まんが喫茶、入り口
マンションのエレベータ、４階で止まる。中から出てきたねじ子（部屋着＋サンダル）、まんが喫茶に入っていく。
店員「いらっしゃいませ…あ、これは奥様」
ねじ子「こんにちは。いつもの席、空いてる？」
店員「もちろんでございます」
ねじ子「じゃ、これ」
　黄金に光る会員証を出すねじ子。

○まんが喫茶、内部
　店内の隅にある広々としたスペース。ソファに寝ころび、まんがを読みふけるねじ子。
ねじ子「うわー、リメイクだからって今時、ポニーテールの女子高生描くかーっ!?あたしン時だって絶滅しかけてたのに……おっと、ワールドシリーズ、どうなったかな（テレビをつける）なんだ松井打ってるなあ。がんばれよ！……あー、喉乾いた。ここはソフトドリンク飲み放題だから、うれしいよねえ。あとでドーナッツ買ってこよう」

○夕方、まんが喫茶
　シートでうたた寝のねじ子。はっと目が覚めて
ねじ子「うわっ、もうこんな時間？５時間も寝てたよ私……すぐ帰る筈だったのに、ダメダメじゃん！」
　シートの脇にあるボタンを押す。店長、やって来る。
店長「どうかなされましたか？何か、不都合でも」
ねじ子「うーん、リラックスできた事はできたんだけど」
店長「ありがとうございます」
ねじ子「リラックスしすぎちゃったのよ」
店長「はぁ？」
ねじ子「ちょっと気分転換して帰ろうと思ったんだけど、あんまり居心地がいいからずっと居ちゃったわけ」
店長「恐れ入ります」
ねじ子「だけどほら、お客さん達だって、ただぐたーっとしたくて来てる人ばっかりじゃないと思うのよ。営業のリーマンが外回りの途中に来て、ちょっとマンガ読んで会社に戻ろうとか、そういうケースもあるわけじゃない」
店長「なるほど」
ねじ子「だからあんまりリラックスしすぎると、却って悪い場合もあるわけよ」
店長「確かに、そうですね」
ねじ子「で、提案があるんだけど。画期的なアイディアよ」
店長「なんでございましょう」
ねじ子「今までのまんが喫茶って、まんがを読む喫茶店じゃない」
店長「当然ですが」
ねじ子「まんがを描く喫茶、作ってみない？」
店長「描く喫茶？」
ねじ子「そうよ、描く喫茶。いままで読むだけだった喫茶店の漫画が、描く漫画と世紀のコラボレート！すっごく斬新な企画！」
店長「（小声で）そうかなあ……」
ねじ子「さあ、そうと決まったら匠（たくみ）を呼ぶのよ！」
店長「誰ですか？」
ねじ子「匠よ！リフォームの匠！」

○一週間後、朝。同まんが喫茶。
　フロアの半分、改装されて机（天板が斜めになっている）とバランスチェアがいくつか置かれている。棚には画材一式。壁には「まんが道」の名シーンが貼ってある
ねじ子「なんということでしょう！」
店長「なんとか間に合いましたが…失礼ですが、奥様のご自宅とあまり変わらないのでは？」
ねじ子「『図書館効果』よ。ライバルがそばにいると、怠けていられないじゃない？そこを狙ってるわけよ」
店長「なるほど…それでは開店してもよろしいでしょうか？他のお客様達もお越しになりましたので」
ねじ子「うん、お願い」

○同日、午後
　ノートにペンを走らせるねじ子。快調。
ねじ子「（小声で）うわー、やっぱりはかどるわ。私の狙った通り。空間プロデューサーにでもなろうかな……」

○同日、夕方
　レジで精算するねじ子
店長「ありがとうございました」
ねじ子「うーん、自分で言うのもなんだけど、結構このリニューアル、よくない？」
店長「おかげさまで、予約枠も一ヶ月先まで満員です」
ねじ子「でしょ？来週もよろしくね」
店長「お待ちしております」

○さらに一週間後
　店内入り口で。
ねじ子「うわ、なんか客増えてない？それになんだかこの匂いは……」
店長「お待ちしておりました」
ねじ子「ども。今日もお世話になりたいんだけど、なんか匂い、すごくない？」
店長「えー、その……ですね」
ねじ子「はっきり言いなさいよ」
店長「やっぱり居心地が良すぎるのが仇となりまして、長居をするお客様……ぶっちゃけて言えば、ま、泊まり込むヤツばっかりになっちゃったんですよ。サウナぐらい行ってくれればいいんですけど、それも行かないし、着たきりだし」
ねじ子「それでこんな匂いが！」
店長「女性客ばっかりなんですが、ねえ」
ねじ子「私の顔見ないでよ！」
店長「中には家族の方が呼びに来られるケースがありまして」
ねじ子「まじ？」
店長「ほら、あの席」
ねじ子「おいおい、話聞いて未成年かと思ったら立派な大人の女じゃん。どう見ても私より年上だし」
店長「こちらでも困ってたんですよ」
　呼びに来た父親、どうにか説得に成功した模様。レジにやってきて店長にクレームをつける
父親「とりあえず今回は連れて帰るが、今度ウチの子が来ても入れさせないでくれよ」
店長「申し訳ありません」
ねじ子「なんか、新興宗教みたいだなあ」
女性客「（父親の手をふりほどこうとして叫ぶ）いやーっ、帰らなーいっ！せっかく神様が降りてきたのにーっ！」
ねじ子＆店長「……はぁ」

【ゲスト配役】
店長……銀河万丈
女性客……國府田マリ子（特別出演）

２００３年１０月１９日、２００字×２０枚