大富豪同人物語：Web連載版　２ｎｄシーズン

○ねじこの家・リビング
　朝食を取る豪太郎。隣でプラズマテレビをを見るねじ子。
アナ「それではメジャーリーグの話題です。財政難に陥っていた３Ａ、サンフランシスコ・スカイラークですが、この度日本のＩＴ企業が獲得に名乗りを上げました」
豪太郎「あ、これウチの会社なんだ」
ねじ子「えー、すごいじゃん。３Ａって２軍みたいなところって聞いてるけど、今年なら木田か田口が来るかもね」
豪太郎「詳しいんだね」
ねじ子「知り合いに、野球やおいの子がいて。マニアが高じてスポーツ新聞社でバイトしてるんだけど、こいつがまたヘヴィーで（以下、延々とその友人について喋り続ける）」
豪太郎「（小声で）またそのセンなのか……」

○桜木町駅・駅前
　白いコートの集団が、テーブルを前になにかを配っている。買い物姿のねじ子が、そこへ通りかかる。
白いコートの男「よろしかったらどうぞ〜」
ねじ子「あー、悪いけどウチは光ファイバー入ってるし」
男「すみません、私たちはその会社じゃありません」
ねじ子「まぎらわしいなあ。あ、わかった。携帯とかダメな人たちでしょ。うしろのライトバン、アースつけてるんでしょ」
男「彼らとも違います」
ねじ子「じゃあなに」
男「チケットの無料配布です」
ねじ子「なんの？」
男「野球の試合です」
ねじ子「ウチは読売いらないよ」
男「チケットだけですってば」
ねじ子「あやしいなあ。どこの試合よ」
男「ベットコスです」
ねじ子「ベットコス？」
男「ご存じないですか？京浜ベットコス」
ねじ子「セにもパにも、そんなチームいないわよ」
男「ベットコスはオ・リーグのチームです」
ねじ子「オ・リーグ？」
男「オリジナル・リーグ。ご存じないですか？
ねじ子「知らないなあ……まあ、話のタネに１枚ちょうだい」
男「ありがとうございます」

○横浜市民公園・野球グラウンド
　段ボールに「みなとスタジアム」と書かれた看板が掲げられている。昼下がり、観客はねじ子だけ。
ねじ子「来てみたけど、これ近所の公園じゃない！ほんとにこれ、プロリーグなのか？」
場内アナウンス「１回表、京浜ベットコスの攻撃は、１番・真羅辺（まらべ）。センター真羅辺。背番号９」
　　　＊　　　＊　　　＊
審判「ストライーック、バッターアウト！」
　空振りして尻餅。
ねじ子「おぅ、いきなり三振かよ。一番っつたら、切り込み隊長だろ？デッドボールもらってでも塁に出なきゃ！」
　ベンチへ戻ろうとしていた真羅辺、向きを変えて審判にアピール。
審判「ターイム！」
ねじ子「なんだ？抗議か？」
　真羅辺、審判からマイクを受け取る。
真羅辺「えー、ただいまのプレイについてご説明します」
ねじ子「説明？」
真羅辺「三振と言うことで、一部ファンの方にはふがいないプレイに映ったかもしれません。しかしながら今回は相手のボールが予想を越えるコースだったために招いた結果と、私は位置づけています。みなさんにはその辺りを誤解されないよう、お願いいたします」
ねじ子「なんだ？いちいち言い訳すんのか、このチームは」
　　　＊　　　＊　　　＊
場内アナウンス「２番・ライト部媚地（ぶこびち）。背番号２０」
審判「ストライーック、バッターアウト！」
　見送りの三振。
ねじ子「おいおい当たりもしねえのかよ」
部媚地「（なにやらアピール）」
審判「ターイム！」
部媚地「実は最近、コンディションの方、あんまりっていうか、全然悪かったんですよ」
ねじ子「また言い訳かよー！」
部媚地「や、そうやって非難されるのは構わないんです。僕一人のミスだって思われるて、笑われるのはいくらでもいいんですよ。でもその点を突いて、ベットコスというチーム、引いてはチームメイトみんなへの批判に持っていくのは、正直やめてほしいんです。ていうかやめてください。そーゆー方は、球場から帰ってくださって結構ですから。お願いしますね」
ねじ子「観客ったって、あたししかいねえじゃねえかよ！」
部媚地「声の大きい方の意見ばかり採り入れると、マニアックで狭い野球になってしまうんですよ。もっとシンプルな見方をするファンのために、僕たち野球をやっていきたいんですよ」
ねじ子「なんだかよくわからないけど、すっげームカつく言い方ーっ！」
　　　＊　　　＊　　　＊
場内アナウンス「３番・ファースト……」
ねじ子「（試合を見ていない。ノートパソコンで２ちゃん巡回中）おう、ここだここだ。野球板だな。

【狂おしい程に】京浜ベットコスを語るスレその１５【マイナー球団】

うわー、ほんとにあったんだオ・リーグ。あ、キャップつけてコテハンまでいるね……選手なのかよ！試合があるたびに、批判に言い訳してやがる。うわー、いちいち気にさわる書き方しやがって。あー帰ろう。もう帰ろう。こんな試合見るだけ時間の無駄だ！」
真羅辺「（ねじ子の右隣に来ている）たいがいみなさんそうおっしゃるんですよ」
ねじ子「うわっ！びっくり！」
部媚地「（ねじ子の左隣に来ている）熱心に応援される方に限って、自分の思い通りに行かないと途端にわめくんですよね」
ねじ子「な、なにしに来やがった」
真羅辺「いや、特になにがあるというわけじゃないんですけどね」
部媚地「もうここまで価値観違う人とはさ、話すだけ無駄だっていうかさ」
ねじ子「じゃあ、ほっといてくださいよ」
真羅辺「それでも言われっぱなしっていうのも、こちらとしては納得いかないというか」
ねじ子「その言葉、使い方間違ってるって！」
部媚地「まあ、こういう感情だけで野球を語る方々のおかげで、まっとうな野球批評っていうのが、なかなか日本には根付かないんだよね」
ねじ子「だからあんたたち、誰に向かって野球やってんの！」
真羅辺「そりゃ、僕らのプレイを理解してくれる人たちですよ」
ねじ子「普通のお客さん、そこまで深く試合見てないよ！ビール飲みながら片手間でテレビ見てたりするんだってば！」
部媚地「なんていうのかなー、物事にはコンセプトって必ずあるじゃないですか。僕らのプレイ一つ一つだって、無意味にやってるわけないんですよ。当たり前じゃないですか。そこんところを無視したまま、自分たちだけで通用する言葉で、グダグダ野球語ってる人たち、もう相手にしたくないんですよね」
ねじ子「（立ち上がって叫ぶ）
　　あぁぁああぁぁーっ！」
　猛然と走り出すねじ子。フェンスを乗り越え、審判からマイクを奪う。
ねじ子「オーナー交代！一回の裏、ベットコス・秋月豪太郎の登場です！」
　リリーフカー、出てくる。自らハンドルを握る豪太郎。マウンドの手前で止まり、立ち上がる豪太郎。
豪太郎「どうも。先ほどオーナーに就任しました、秋月です。いやー悪い噂を耳にしたんで調査を入れていたんだけど、聞きしにまさるチームだね」
ねじ子「豪さん、あんな奴らやっつけちゃってよ！」
豪太郎「んー、どっから手をつけていこうかなあ。なにしろヤフオクに３０円で売っていたチームだからなあ」
真羅辺「そんな、ありえない！」
豪太郎「残念だけど、事実ですよ。あんな成績で高い年俸取ってたら、そりゃ潰れもしますって。とりあえず、トレードからだね」
部媚地「（泣きながら土を拾い集める）」
豪太郎「あきらめ早いんだなあ」
ねじ子「あー、胸がスっとした。おう、ビールくれビール」
売り子「あーりやっとーす」
ねじ子「ぶわ。試合が生ぬるいとビールも生ぬるいのかよ」
売り子「みなさんそうおっしゃいますけど、元々ビールというものは冷やして飲むものだなんて、決まってないわけですよ？」
ねじ子「言い訳すんなや！」

（２００３年５月４日、２００字×２０枚 ）