大富豪同人物語：Web連載版　２ｎｄシーズン

○日曜朝、跡楽園（あとらくえん）遊園地
　水道橋駅、続いて「跡楽園ゆうえんち」の看板。
豪太郎「大人２枚」
ねじ子「（先に走っている）豪さん、はやくはやく！」
豪太郎「ああ、今行くよ。しかし、すごい行列だね。これ全部ショーを見に来た人？」
ねじ子「そうよ、今日の『ハガクレンジャーショー』は本物の役者さんも来るんだから」
豪太郎「へえ、そうなんだ。こういうの、初めてだけどわくわくするね」
ねじ子「初めて。デパートの屋上とか、行かなかった？」
豪太郎「子供の頃はあんまり、連れてきてもらえなかったんでね」
ねじ子「そうなんだ……あ、ホットドッグ、買ってくるね！豪さんコーヒーでいいよね？」
豪太郎「あ、うん。ありがとう」
　売店まで走っていくねじ子。そこから目線を行列に移す豪太郎。楽しそうな親子連れ。息子を肩車する父親。
子供「パパーッ！」
豪太郎「……」
　ねじ子、戻ってくる。
ねじ子「はい、お待たせ」
豪太郎「ありがとう」
　急いで食べようとして、むせる豪太郎。少し涙目。
ねじ子「豪さん、今日ドジっ子」
豪太郎「……そう？」
ねじ子「なんか、キャラが違う」

○ハガクレンジャーショー会場
　満員の観客席。ショー始まる。ねじ子、ビデオカメラを三脚にセット。
司会「よい子のみんなーっ！」
豪太郎「おぉーっ！」
　隣の席の男の子といっしょに。本気。
ねじ子「……」
　　　＊　　　＊　　　＊
　変身前の女性キャラに、怪人が襲いかかる
豪太郎「あぶなーいっ！」
　隣の席の男の子といっしょに。本気。
ねじ子「……」
　　　＊　　　＊　　　＊
　ハガクレンジャー、敵にとどめを刺す
豪太郎「やったーっ！」
　隣の席の男の子といっしょに。本気。
ねじ子「……」
　　○ショー会場の隣、グッズショップ
豪太郎「うわー、うわー、うわー」
　両手にいっぱいにおもちゃを買い漁る。
ねじ子「あの、さあ」
豪太郎「え？」
ねじ子「やっぱり今日の豪さん、なんかヘン」
豪太郎「そ、そうかなあ」
ねじ子「ヘン」

○ゆうえんち内、レストラン
豪太郎「（力強く）ハガクレランチを！」
ウエイトレス「申し訳ありません。こちらのセットは、小学生以下のお子さまに限らせていただきます」
豪太郎「ふえーん！」
ねじ子「泣かないでよ」
豪太郎「子供、作っておけばよかった……」
ねじ子「バカ言わないで！」

○ゆうえんち内、撮影コーナー
　子供がハガクレンジャーの衣装に着替えてポーズを取る。スタッフが撮影している
豪太郎「……いいなあ」
ねじ子「マジで？」
豪太郎「うん。着たいなあ、あれ」
ねじ子「うらやましいの？」
豪太郎「自分でもおかしいと思うけど、やっぱり、子供の頃遊んでもらえなかった反動かなあ」
ねじ子「帰りにうちのお店寄ってよ。変身セットはないけど、ハガクレジャケット、ほら変身前に３人が着てたブルゾン、大人用のが売ってるから。それ買いなさい」
豪太郎「うわーい！じゃあ僕ハガクレッド、ねじ子さんハガクレブルーね」
ねじ子「はいはい。今度は一人で来よう……あれ？」
豪太郎「ハガクレイエローだ」
　二人の前方、ハガクレジャケットを着てうつろな目線で歩いてくる女性。
豪太郎「じゃない、ぷぢ子さん？」
ねじ子「しっ！」
豪太郎「どうして」
ねじ子「目を見なさいよ。明らかにマズいってアレ」
豪太郎「でも心配だな、後を付けよう」
ねじ子「うん」

○ゆうえんち内、レストラン
　入っていくぷぢ子。窓の外で見守るねじ子と豪太郎。
ぷぢ子「（力強く）ハガクレランチを！」
ウエイトレス「申し訳ありません。こちらのセットは、小学生以下のお子さまに限らせていただきます」
ぷぢ子「ふえーん！」
　ねじ子と豪太郎、顔を見合わせてため息。

○ショー会場の隣、グッズショップ
　無言で商品を買い漁るぷぢ子。
豪太郎「どうしたんだろう、あそこまでタガが外れる人じゃなかったのに」
ねじ子「ちょっと調べてみるね」
　ノートパソコンを開き、なにやら調べる。
ねじ子「うわっちゃ」
豪太郎「なんだい？」
ねじ子「ぷぢ子のＨＰ、いつの間にかハガクレイエローのファンサイトになってる」
豪太郎「ハマってるんだなあ」
ねじ子「それだけならいいけど、この日記はちょっと」
豪太郎「どれどれ」

○ＨＰ日記、回想シーン
ぷぢ子「（ナレーション）今日も彼からは電話もメールも来ませんでした。きっと撮影で忙しいからだと思います。だってわかるもの、私にはわかるもの」
　　　＊　　　＊　　　＊
　撮影中のハガクレイエロー（変身前）、ポーズを決める。
イエロー「風魔流博才術、一天地六！」
監督「カーット！」
イエロー「（さわやかな笑顔）」
　汗を拭いながら胸のロケットを開けると、ぷぢ子の顔写真。
　　　＊　　　＊　　　＊
ぷぢ子「たいへんなんだよね、彼も役者としてやっていけるかどうか、勝負の毎日だから、私なんかに構っている時間、ぜんぜんないものね」

○グッズショップ
ねじ子＆豪太郎「（パソコンの画面から顔を上げて）うわーっ！」

○ＨＰ日記、回想シーン
ぷぢ子「きっとこうしている間にも、彼はどんどん私の手の届かないところに行くんだわ」
　　　＊　　　＊　　　＊
　夕暮れのロケ地、アクションシーン中のイエロー（変身前）。
イエロー「ハァーッ！」
監督「はい、カーット！」
撮影スタッフ一同「お疲れ様でしたー！」
　携帯を取り出すイエロー、メモリからぷぢ子に電話を掛けようとする。
女性マネージャー「ちょっと、誰に掛けるつもり？女のとこじゃないでしょうね？」
イエロー「い、いえ男友達っすよ」
女性マネージャー「なら、いいけど。わかってる？この仕事入ってるうちは、色恋沙汰厳禁だからね」
　　　＊　　　＊　　　＊
ぷぢ子「でも、信じなきゃ。見守らなきゃ。だって彼には私だけが救いなんだから」

○グッズショップ
ねじ子＆豪太郎「ぎゃーっ！」
　ひとしきり叫んでから
豪太郎「ま、まいったなあ。知り合いだけにまたキツさはひとしおだなあ」
ねじ子「豪さん以上に、シャレになってないよなあ」
豪太郎「その例えはどうも引っかかるけど……ほんとにどうしちゃったんだろう？」
　うつろな目で会計を済ませる、ぷぢ子。両手に紙袋を下げ、よたよたと店を出ていく。

−続く−
（２００３年４月２７日、２００字×１９枚）

第9話「風魔戦隊ハガクレンジャー（後編）」

○新宿「アキヅキ」本社
　ビルのアオリ、続いて１Ｆ受付。
受付嬢「いらっしゃいませ」
ねじ子「（サングラスを少し下げて）ご苦労様」
受付嬢「……あ、これは奥様。あいにく社長は外出中とのことですが」
ねじ子「今日はちょっと調べ物なの。いちばん左の奴、お願いね」
受付嬢「かしこまりました」
　ホールに並んだエレベーターのうち、一番左のドアが開く。乗り込んだねじ子、５階を３度押して「閉」ボタン。
エレベータ内アナウンス「Completed」
　階数表示、すごい勢いで下がっていく。
ねじ子「あわわわわ」

○地下５５階「特別秘密調査室」
　エレベーター開く。照明を落としたフロア、壁に大きなスクリーン。整然と並んだ机、キーボードを叩くオペレーターたち。
係員「お待ちしておりました」
ねじ子「例の調査は」
係員「ご覧ください」
　スクリーンに映像。
係員「奥様がおっしゃられた通りです。ここ１ヶ月、彼女のホームページは完全にハガクレイエローのファンサイトになっています」
　　　＊　　　＊　　　＊
　ぷぢ子のＨＰ、再現シーン。公園でトレーニングしているイエロー（変身前）。
ぷぢ子「きゃーっ！」
敵女幹部（くの一姿）「フハハハハッ！その密書、こちらに渡してもらおうか！」
イエロー「待てーっ！（跳び蹴り）」
敵女幹部「おのれ、とんだところで邪魔が入りおったわ！次はこうは行かんぞ！（去っていく）」
イエロー「大丈夫かい？怖くなかったかい？」
ぷぢ子「ううん、平気……あ、痛い！」
イエロー「足をひねったんだね、よし、家まで送っていこう。背中に乗るといい」
ぷぢ子「きゃっ（はぁと）」
　　　＊　　　＊　　　＊
ねじ子「なんじゃこりゃ！」
係員「奥様のおっしゃっていた、『ドリーム小説』というやつでしょうか」
ねじ子「この後に出てくる、『ぷぢ子の知り合いでイヤミな成金の人妻』って誰よ」
係員「さあ」
ねじ子「まさかナマモノ相手にここまで打ち込む……いや、取り憑かれてると言った方がいいわね」
係員「そうとしか説明できない執筆ペースです」
ねじ子「そんなにすごいの？」
係員「全盛期の赤川次郎の３倍です」
ねじ子「それはそれは……きっとなにか、理由があるに違いないわ」
係員「ボーイフレンドの線を調べてみました。どうやら不仲になったのと同じ頃、彼女のサイトも内容が変わったようです」
ねじ子「丈一君だったっけ、就職でなんかこじれてたって聞いてたけど」
係員「内定は出ていたのですが、結局辞退されております。現在は、ガソリンスタンドでアルバイトをされておられます」
ねじ子「わかったわ。ちょっと話を聞いてくる」
係員「お気をつけて」

○桜新町「ガソリンスタンド・大噴火ＳＳ」
丈一「いらっしゃいませー……うわーっ！」
　ねじ子の車（トヨタヴィッツ）、スピードオーバーで止まりきれない。
ねじ子「うわっちゃ！」
　壁寸前で１８０度ターン。
ねじ子「おぉっと、あぶねーあぶねー」
丈一「大丈夫ですか？」
ねじ子「よ、よぉ」
丈一「運転が下手なのか上手いのかわからない……」
ねじ子「満タン、お願いね。あと、早速でアレだけど、仕事引けたらつきあってくれない？」
丈一「は、はあ」

○ファミレス「ハーベストムーン」桜新町店
ねじ子「んでー、就職はどうしたのよ」
丈一「まあ、いろいろありまして」
ねじ子「あやしー。実はまだ、やりたいことあったとか」
丈一「うーん、そんなところですか」
ねじ子「きーっ、最近の若い子は余裕があるんだかなんだか知らないけど、贅沢言っちゃってさ」
丈一「心配してるんですか」
ねじ子「ぷぢ子がね」
丈一「やっぱり。仕事辞めるって言ったら、もうすごく怒られちゃって」
ねじ子「当たり前だよ」
丈一「それからなんだか、気まずくなっちゃって」
ねじ子「フリーターなのは悪くないけどさあ、ぷぢ子には筋通しといた方がいいんじゃない？」
丈一「そう、ですよね」
ねじ子「それじゃ、相談だけどさ」
　書類の束を出すねじ子。

○秋葉原「ダイナマイト電器」本店
店長「おーい、浅茅さん」
ぷぢ子「……」
店長「浅茅さん！」
ぷぢ子「（無言で振り向く）」
店長「最近ミスが多いけど、どうしたんだ？」
ぷぢ子「（小声で）もうしわけあり……」
店長「今日はもういいから、この書類、帰りがけにアキヅキさんの会社に渡してきて」
　よたよたと店を出ていくぷぢ子。
店長「こ、これでいいですか？」
　後ろを振り向く。
豪太郎「（うなずく）」

○アキヅキ本社「オフィス」
社内アナウンス「社員の皆様にお知らせします。誠に勝手ながら、本日は『抜き打ちノー残業デー』になりました。すみやかに仕事を打ち切り、おうちに帰りましょう」
社員Ａ「やれやれ。毎度思うんですけど、これって下校のお知らせみたいですねえ」
　スピーカーから「真っ赤なスカーフ」が流れる
社員Ｂ「でもこの歌聞いてると、もう家に帰りたくてたまらなくなるね」
社員Ｃ「妙なところに凝る会社だよなあ」
社員Ｄ「♪ラ〜ラララララ〜」
社員一同「哀しい歌だなあ」

○アキヅキ本社「１Ｆフロア」
　ぷぢ子、よたよたと入ってくる。照明が消え、誰もいないフロア。
ぷぢ子「？」
　辺りを見渡す。
女の声「フハハハハッ！よく来たな。ここがお前の墓場になるとも知らずに！」
　ぷぢ子の目の前、スポットライトが当たると、くの一姿のイリア。投げつけた手裏剣、壁に突きささる。
ぷぢ子「うわあっ」
イリア「その書類、こちらに渡してもらおうか！」
ぷぢ子「ほ、ほんものだあっ。こんなことになるんだったら、あんなドリームな話、書くんじゃなかった」
イリア「さあ、渡してもらおうか！」
男「待てっ！」
　吹き抜けの一番上、腕を組んだ人影が二つ。
イリア「何奴！」
、豪太郎とねじ子（それぞれハガクレジャケット赤、青を着用）、フロアへダイブ。
豪太郎「光の壱号、ハガクレッド参上！」
ねじ子「炎の弐号、ハガクレブルー見参！」
イリア「おのれ、二度までも邪魔する気か。かかれーっ！」
　戦闘員出てくる。
豪太郎「（刀を構えて）参る！」
ねじ子「（小声で）豪さん、本格的だね今日は」
豪太郎「ふふふ、本物を呼んであるんだ」
ねじ子「うわ、スゴーイッ！」」
　乱戦始まる。戦闘員の一人、ぷぢ子に襲いかかる。
戦闘員「クェーッ！」
ぷぢ子「きゃーっ」
男「待てーっ！」
　イエローのハガクレジャケットを着た丈一、跳び蹴りで割って入る。
丈一「風の参号、ハガクレイエロー推参！」
豪太郎「ここは俺たちに任せて、イエローは早く！」
丈一「はいっ！」
　丈一、ぷぢ子を「お姫様抱っこ」で走り去っていく。フロアから出るのを見届けて
豪太郎「はい、カットでーす！ご苦労様でした！」
全員「おつかれー」
イリア「うまく行くといいですね」
ねじ子「『吊り橋効果』ってやつよ」
イリア「あー、ドキドキしてる時の方が相手が魅力的に見えるっていう」
ねじ子「そうそう」
豪太郎「しかし、楽しいねこういうのは。なんだかハマりそうだよ」
ねじ子「（小声で）こ、今夜はコスプレえっちかしら？わお」

○翌週日曜日、跡楽園ゆうえんち「風魔戦隊ハガクレンジャーショー『対決！くの一軍団』」
ねじ子「いやー、なんだかんだあったけど、こうしてみんなで騒ぐのは、やっぱり楽しいわよね」
豪太郎「まったくまったく。でも、あんまり心配させないでくれよ」
丈一「はい。ご迷惑をおかけしました」
ぷぢ子「ちょっと、私も今回は迷惑掛け通しだったみたいで、その、参ったというか」
ねじ子「いやーそれを言うなら参ったのはこっち」
イリア「（ねじ子の口に手をやって）どう、丈一君。子供の頃を思い出すんじゃない？」
丈一「はい。でもなんか、ここって大人の人の方が多くないですか」
ねじ子「げふっ。こ、子連れがいるからよ」
丈一「それにジャケット。あれ特注かと思ったらみんな着てるじゃないですか。大人用は売店になかったみたいだけど、どこで買ってるんですか？」
豪太郎・イリア「げふっげふっ」
ねじ子「ていうかさあ、望遠つけたビデオカメラセットした奴のとなりで、そういうことヌケヌケと言うか？言うか？」
ぷぢ子「やめて、彼はパンピーなのよ、本気で知らないの！」
ねじ子「無知は罪ね。いいえ、許されざる大罪だわ！」
豪太郎「（ねじ子さんて、こういうことになると漢字の入った難しい事を言うんだなあ……）」

（２００３年５月４日、２００字×２３枚）