大富豪同人物語：Web連載版　２ｎｄシーズン

――日曜朝。冗談の様に広いベッドの上で目を覚ましたクリス、起きあがるとドレッサーの前へ
クリス「（ドレッサーを開ける）あーっ！こんなのしかないのーっ？困ったなあ、今日出掛けなきゃいけないのに…」
――同日、昼下がり。マニアメイト横浜店。客でごった返す中、忙しく立ち回るねじ子。
ねじ子「いらっしゃいませー！……あーまったくもう、どこからこんなにテニスウエアの女子たちがあふれてくるのかしら！……すみません、そこのお客様、店内でラケットは振らないでくださーい！」
クリス「お姉さん、こんにちはー」
ねじ子「おや、クリスちゃん。こんにちは」
クリス「近くで即売会があったんで、立ち寄ってみました」
ねじ子「あら、わざわざありがとう。そうか、即売会があったのかー。でもどうしたの、その格好。むかしのアニメの女の子みたいよ」
――クリスの服装、肩口のところがふくらんだ、木綿のワンピース（無地の水色）。
クリス「春物がクリーニングに出ちゃってて、これしかなくって……恥ずかしいですよ」
ねじ子「えー、いいじゃない。そういうのが似合う子ってなかなかいないわよ」
クリス「そうですかぁ。でも、なあ……」
男「キミ！」
――背後から声を掛けられたクリス、振り返る。痩せた無精ヒゲの男が立っている。
クリス「ど、どなた様ですか？」
男「申し遅れました、私――」
ねじ子「あ、わかった！『マネーの虎』に出てる人でしょ！でもこの子はまだ１４歳だから、ご希望に添えられるかどうか」
男「？」
ねじ子「だっておたく、ＡＶ出してるとこの社長さんでしょ？」
男「それは高橋がなりだよ！よく見たまえ、確かに痩せ気味ではあるが、私はちょっと白いんだよ」
ねじ子「あ、ほんとだ」
男「まったく。私はスタジオ・ヅブリのプロデューサー、種々木（しゅじゅき）です」
ねじ子「え！あのアカデミー賞を取った！」
種々木「そう、『ハワイ人対宇宙人』よりおもしろいアニメを作った会社のプロデューサーだ！」
ねじ子「おめでとうございます。でもおたくんとこは専門のグッズショップがあるから、わざわざこんな店まで来なくたって……」
種々木「たまにはこんなアニメオタクが集う店も覗いておくのも、プロデューサーの仕事なんだよ」
ねじ子「アニオタ揃いで悪うございましたね」
種々木「でも！おかげでこんな素敵な少女に会うことができた！さっそくハヤさんのところに連れて行きたい！」
クリス「ハヤさん？」
種々木「知らんのかね、監督のハヤさんだよ」
ねじ子「ああ、早咲宮夫さんね」
種々木「彼はいま、スタジオで新作のアイディアを練っているところなんだ。この子を連れていったら、きっとイメージがふくらむぞ！」
――スタジオ・ヅブリ待合室。
種々木「ハヤさんの部屋はこの奥だ」
ねじ子「なんかサインしてもらう本、持ってくれば良かったなあ」
種々木「ここからはお嬢さん一人だけだよ」
ねじ子「えーっ！」
種々木「ハヤさんは人見知りが激しいんだ」
ねじ子「心配だなあ。クリス、ヘンなことされそうになったら大声出すのよ！おっぱいとかさわられそうになったら、『まだおいしくありません』って言うのよ！」
種々木「うわ、やめたまえ！周りに勘違いされるだろう！」
ねじ子「大声出すのよ！」
種々木「キミの声の方が大きいよ！」
――夕日が射し込む、だだっぴろい早咲カントクのアトリエ。アンティークな内装に、積み上げられた戦車のプラモデル、むき出しに置かれた車のエンジン、アンバランスな雰囲気に戸惑いながらクリスが入ってくる。
クリス「あの、こんにちは……」
――部屋の真ん中、ドアと反対方向を向いて置かれたでかいソファ。そこに寝転がるようにして座る小柄で眼鏡の初老の男。早咲カントクである。なにかスケッチを描いている。
クリス「あの、監督さん？」
――早咲カントク、スケッチブックを一枚ちぎると、ソファ越しにクリスに手渡す。女の子の似顔絵が描いてある。
クリス「……これ、私？」
――うなづくカントク。
クリス「不思議だわ、絵を見ていると、この人の言葉が頭に中まで聞こえてくるみたい……」
――カントク、もう一枚スケッチを描き上げて手渡す。
クリス「……顔を見なくても、キミの声だけでここまでわかるんだ……うわあ、着てる服までそっくり」
――さらにもう一枚。
クリス「きゃっ！裸じゃない！でも、体のライン、確かにこの通りだわ。下っ腹とか、おしりのあたりとか……足音と声の出し方から、たぶんこんな体じゃないかなと思って……うん、確かにそっくりです。すごいです、カントクさん」
――カントク、うれしそうに何枚もスケッチを描いて手渡す。
クリス「うわあ、すごーい！私もこんな風に草原を自転車で走ってみたいなあ……でもカントク、なんでどのカットも私、ワンピース着てるんですか？たまたま今日はこの服ですけど、普段はもうちょっと今風なの着てますよ？」
――カントク、眉間にしわを寄せてうなりながらスケッチ。しかし納得がいかない様子で、結局ぐしゃぐしゃに丸めて投げてしまう。
クリス「（スケッチを拾って広げる）うーん、こんなでっかいリボンや、つばの広い帽子は、あんまり着ないんですけど……え？最近の女の子の服は、よくわからない？……でも街を歩いてる子を見たりデパートの子供服売場に行けば……流行り物は嫌いだ？今のこまっしゃくれた子供も大嫌いだ？カメラを向けると『イェーイ！』って両手広げてポーズなんか取りやがって、お前ら素人の癖に……あの、カントクさん、私にそういう事言われても困るんですけど」
ねじ子「クリース！早まっちゃダメよ！」
――ドアを蹴破ってねじ子入ってくる。後ろから種々木プロデューサが羽交い締め。
種々木「よせ！ハ、ハヤさんは少女と二人きりの時間を邪魔されると、手がつけられなくなるんだ！」
ねじ子「黙らっしゃい！世界のハヤザキだろうが何だろうが、アニメ出演をエサに、いたいけな少女をハダカにひん剥いて……あれ？」
クリス「あのー、なにか勘違いされてるみたいですけど」
ねじ子「え？前に作ったアニメみたく、うねうね触手にハダカの美少女が、ぐっちょんぐっちょんいされてるんじゃあ」
種々木「キミ、それは本当にウチのアニメなのか」
ねじ子「だと思ったんですけど。うーん、間違ったかな？」
クリス「あ、カントク！」
――ねじ子と種々木のやりとりを聞いていた早咲カントク、ソファから立ち上がるとゆっくりと振り返る。
種々木「ああっ！カントクの目があんなに真っ赤に！もう誰も止められないぞ！」
ねじ子「きゃーっ！」
――突進するカントク。その前に立ちはだかり、両手を広げるクリス。
ねじ子「ダメよ、逃げなさーい！」
種々木「うわー！」
――カントク、クリスの前で止まる。
クリス「（諭すように）ソファへお帰り……ね、いい子だから……」
――カントク、穏やかな顔つきに戻り、静かにソファに戻って寝転がる。
種々木「なんてことだ……こんな事は初めてだよ……いつも暴れ出すと七日間は止まらないのに……」
ねじ子「やっかいな人だなあ。そんなカントク、なぎ払っちゃえばいいんですよ」
種々木「そのためには発掘をしないと……」
ねじ子「え？」

（０３／０４／０６書き下ろし、２００字詰め１８枚）