大富豪同人物語：Web連載版　２ｎｄシーズン

――日曜昼さがり。代々木公園にほど近い、フットサルコート。ユニフォームに身を包んだねじ子、豪太郎、ぷぢ子、丈一（ぷぢ子の彼氏）イリアが輪になってストレッチを行っている。中心にいるのは、ニットキャップにグラウンドコート姿のアンリ王子。メモを読み上げる。
アンリ「えー、それでは第一回クラインバルト国王杯争奪、フットサル大会のルールについて説明いたします。１チーム３人ずつに分かれて対抗戦を……と言いたいところなんですが、一人、足りませんね」
　　　ねじ子、手を挙げて、
ねじ子「はーい、さっき海老沢さんから電話がありました。年末進行で風邪こじらせちゃって、欠席するって」
　　　苦々しげな表情で、ぷぢ子
ぷぢ子「ったくスケジュールを破らせたら世界一だな、奴と奴の作るゲームは！」
　　　落ち着いた様子で、イリア。
イリア「新年早々、毒まみれね」
ぷぢ子「年末年始さ、やつんとこの商品、ことごとく読みを外す売れ行きでな」
――回想シーン。年末のダイナマイト電器秋葉原店の店頭で、客に平謝りのぷぢ子。
ぷぢ子「申し訳ありません、ジオテックの『げえせんパーティー』は、ご予約の方のみとさせていただきます」
客Ａ「えー！」
客Ｂ「発売日から８５％引きだってチラシ見て、わざわざ鳥取から来たんだぞー！」
ぷぢ子「誠にすみません、予約のお申し込みが殺到いたしまして」
客Ｃ「納得いかなーい！」
客Ｄ「２ちゃんに書き込んでやるー！」
ブーイングを始める客たちを見ながら、小声で。
ぷぢ子「初回受注の勢いがないからって、特典つけまくる事ねえじゃねえかよ！おかげで読みが完全に狂っちまったぜ」
客Ｅ「（ＯＦＦ）すみませーん、予約したものですけど〜」
　　　はっと顔を上げる
ぷぢ子「はい、ありがとうございます」
　　　いったんバックヤードに行くぷぢ子。１．５メートル四方の段ボール箱を抱えて戻り、カウンターに載せる。
ぷぢ子「よっこらせっと！えー、テーマＣＤ、デスクトップアクセサリー、抱き枕……以上３２種類を１２キャラ分、間違いありませんね？内金と合わせまして５万４８００円いただきます。ありがとうございました！」
　　　買えなかった客たちの恨みがましい目線をものともせず、意気揚々と帰っていく客Ｅ。回想シーン終わり。
アンリ「まあ、来られないんじゃあ仕方ないですね。僕、どちらかのチームに入りますか。それとも志向を変えてリフティング大会など」
　　　オーバーアクションで静止するぷぢ子。
ぷぢ子「それはやめた方がいい！あんたマジで国に帰れなくなるよ！」
アンリ「どういうことですか？」
ぷぢ子「それはあそこにいる女に説明してもらおう」
　　　みんなの目線が、ねじ子に集中する。ひとり憤慨しながら
ねじ子「なによー、人がリフティングの練習したくらいで目くじら立てなくたっていいじゃない。ちょっとばかり、台風が来たり雪が降ったりしただけでしょ」
豪太郎「でもまさか、都内の電車を全部止める程降るとは、ねえ」
丈一「ええ、あやうく講義に遅れるところでしたよ」
ぷぢ子「新製品ラッシュの日だったのに、納品が遅れてさあ」
　　　王子に向かってイリア、説明する。
イリア「普段やらないことをやると、珍しいがために雨や雪が降るという言い伝えが日本にはあるのです」
　　　あくまで素直な表情でうなずく、アンリ。
アンリ「なるほど、よくわかりました。ねじ子さんは普段体を動かさない人だったんですね」
　　　ねじ子、顔を真っ赤にしながら。
ねじ子「そこまで説明しなくてもいいじゃない！ああそうですか、そうやって人を悪者扱いしておもしろおかしく過ごせば、みなさんは楽しいんですね？満足なんですね？！」
ぷぢ子「おいおい、拗ね始めちゃったよ。豪さん、この正月はしっぽりと過ごせたかい？」
豪太郎「いやそれが、年始の挨拶やらなんやらで忙しくて」
ぷぢ子「やっぱり。それでなのか」
ねじ子「ヘンな想像しないでよ！豪さんも正直に答えなくていいってば！」
イリア「今日は天気じゃなくて、本人が荒れてるのね」
――そこへサッカーボールが飛んでくる。
豪太郎「危ない！」
――大きくジャンプし、キックでクリアするねじ子。
ねじ子「ハッ！」
　　　着地するねじ子。蹴り上げたボールをキャッチすると、ボールが来た方向を見据える。ゴールポスト上に（ねじ子達とは異なる）ユニフォーム姿の女性が腕を組んで座っている（逆光でよく見えない）。
ぷぢ子「小次郎みたいなことして、人騒がせだなあ。誰だよー、いったい」
ねじ子「まさか……」
――フットサルコートに「振り向くな君は美しい」（高校サッカーのテーマ曲）が流れ始める。女性、ポストから華麗に飛び降りる
女性「明けおめ〜！」
ねじ子「……お母さん、どうしたのよ」
一同「お母さん？」
　　　きわめてリラックスした様子で、ねじ子ママ。
ねじ子ママ「どうしたもこうしたもないだよ、高校サッカー決勝戦の観戦ツアー申し込んでたのに、今年は静学の子っちがだらしんないで、ひゃあ正月は暇で暇でしょんなかっただけえが、せっかくだもんで来るだけ来てみただよ、東京まで」
豪太郎「ええと、要するに時間ができたから遊びに来られたんですね。お母さん」
ねじ子ママ「そうだよ、豪太郎さん。（イリアとアンリに目をやる）ああ、今日は外国の人がいるから、ちゃんと標準語で喋るね」
ねじ子「そこまで気を使わなくてもいいけど」
　　　ユニフォームを指さす豪太郎
豪太郎「ところで、その格好は？」
ねじ子ママ「ああ、これね。町内ママさんサッカーチームの。今年っから毎月リーグ戦があるんで、こうして暇な時間は体を動かしてるのさ」
アンリ「じゃあ、ねじ子さんのお母さんに参加していただくということで、試合、やりますか？」
豪太郎「いいですよ」
イリア「異議なし」
丈一「よろしく」
ねじ子「すみません」
ぷぢ子「オッケー。でも親子で日本の天気、めちゃくちゃにする気じゃないだろうな？」
――試合開始。センターサークルに並ぶ両チーム選手、ねじ子・豪太郎（ＧＫ）・ねじ子ママ、もう一方はぷぢ子・丈一・イリア（ＧＫ）。コート脇に設けられた机の前に座る二人組。
アナウンサー「穏やかな新春の風が、フィールドを吹き抜けていきます。第一回クラインバルト国王杯争奪、フットサル大会の模様をここ神宮寺フットサルコートからお送りいたします。実況は小学校対抗戦からワールドユースまで、静岡のサッカーシーンをお届けする私村山、解説は大会のスポンサーでもあり、クラインバルト公国第七王子でもあらせられます、アンリ殿下です。よろしくお願いします」
アンリ「よろしく」
アナ「開始直前、急遽メンバーとして加えられた諏訪内選手、秋月選手のお母様ですが、戦力的にどうご覧になりますか？」
アンリ「そうですね、さきほどボールさばきを見ましたが、かなりのテクニックを秘めている選手と見ていいですね」
アナ「正に秘密兵器と言ったところですか。さあホイッスルが鳴ってキックオフ、おっといきなり諏訪内がインターセプトに成功、これを見てねじ子がオーバーラップしている、そこでパスが……いや、諏訪内ドリブルで上がってそのままシュート体制に入ったーっ！」
イリア「ふふ、ペナルティエリアの外からのシュートなんか……なにィッ！」
　　　ねじ子ママ、いったんボールを軽く蹴り上げると、叩きつけるようにしてイリアの足下にシュート。イリア追いつけず、そのままゴール！
アナ「決まったーっ！先制ゴール！手元の時計によりますと、なんと試合開始からわずか３０秒です」
ねじ子「お母さんすごーい！」
アナ「あっと諏訪内、両耳に手を当ててゴールをアピール、これはアルゼンチン代表リケルメ、そして日本代表の高原でおなじみのポーズだ！」
イリア「スシボンバー！」
アナ「正に高原が乗り移ったかのような豪快なシュートです！」
丈一「うわー、すごい人が来ちゃったなあ」
ぷぢ子「い、遺伝子だわ。静岡の奴は遺伝子にサッカーが組み込まれてるんだわ！」
――その後、攻守に渡って活躍するねじ子ママのダイジェストシーンを交えつつ、試合は終了。
アナ「ここで試合終了！５−１でチーム秋月、勝利を収めました！」
　　　イリア、キーパーグローブを取るとねじ子ママに握手を求める。
イリア「完敗です、お母さん」
　　　得意げに、ねじ子ママ。
ねじ子ママ「お嬢さん、覚えておいて。静岡を制する者は世界を制するのよ！」
イリア「はい！」
アナ「ＭＶＰはもちろん、諏訪内選手です」
　　　ねじ子ママ、アンリからトロフィーを受け取り、満面の笑みで高く掲げる。
アナ「それではこの辺で、みなさんとはお別れです。ごきげんよう、さようなら！」
――翌朝、ねじ子達のマンション。リビングでテレビニュースを見るねじ子ママとねじ子。
ねじ子ママ「悪いねえ、昨日のうちに帰るつもりだったんだけど」
ねじ子「まあ、しょうがないよね。夕べからこれじゃ」
　　　窓の外を見るねじ子とママ。猛吹雪である。
ねじ子ママ「やいやい、すごい天気だえれ。どうするんだい、豪太郎さんは」
ねじ子「電車も道路もダメだけど、電話とメールで連絡ぐらいは取れるって、自分の部屋にこもってるよ」
ねじ子ママ「はあ、難しいことがやれるだね、あんたの亭主は」
　　　ややあきれ顔で苦笑するねじ子。
――都内のホテル。あっけに取られつつベッドから外を眺める、イリアとアンリ。
イリア「まさか、ここまでとは……」
アンリ「成田もこんなんじゃ、飛行機、飛びませんよね」
――丈一のアパートで朝を迎えたぷぢ子。悲壮な顔で身支度をしている。
　　　丈一、こたつに入りながら
丈一「今日は休んだら？」
　　　玄関で靴を履きながら、ぷぢ子。
ぷぢ子「ダメ。正月セールの残りもあるし、売場の模様替えもあるから」
　　　もう一度窓の外に目をやって、丈一。
丈一「にしても、親子ですごいパワーだよね」
ぷぢ子「何しに来たんだよ、まったくさ！」
　　　ドアを開けるぷぢ子、突風に飛ばされて廊下を転がる。
ぷぢ子「うわあーっ」
　　　あわてて玄関の外に出る丈一。寒さに身を縮めながら
丈一「大丈夫ー？」
　　　雪まみれの顔で叫ぶ、ぷぢ子。
ぷぢ子「訴えてやるーっ！」

（０３／０１／１３、２００字詰め２６枚）