大富豪同人物語：Web連載版

――金曜午後。大手ゲームメーカー「ジオテック」第３会議室。開発チームに年末年始のスケジュールを説明する、海老沢部長。
海老沢「以上です、なにか質問は？……あとでメールで聞いてきても教えませんよ？……はい、冬季休業中は、事前申請しないと総務さん暖房入れてくれません。忘れた場合は電話で守衛さんに……私の携帯に掛けてきても取り次ぎませんからね（一同、大ブーイング）……あんたたち電話ぐらい自分でしなさい！お母さんはもう知りません！」
――日曜昼さがり。ネットカフェNecca秋葉原店。仏頂面で待ち合わせ中の海老沢部長。そこへやって来るイリア、ペアシートの隣に座る。
イリア「お待たせしました。はい、コーヒーとクロワッサン……あら、ずいぶん不機嫌ね」
海老沢「誘ってもらってなんだけどさ、私アキバあんまり好きじゃないのよ。右も左もオタクばっかりで、会社にいるのと変わらないし」
イリア「オタクが嫌いなの」
海老沢「そう。私が入社した頃はゲームに詳しくない方が珍重されたのにね。なんだかんだで、今のありさま」
イリア「まあ、それは無理もないか。でもアキバには、こんなところもありますよ（ホームページを開く）」
海老沢「ゲームショップ？そんなの、ここじゃなくたって」
イリア「よく見て。女性専用のショップだから、オタクな男の目線も気にならないのよ」
海老沢「ふうん。まあ、一度は行ってもいいかもしれないけど、貴重な休みを割いてわざわざ」
イリア「あなたの年齢と干支は？」
海老沢「３５歳の午……なに聞いてんのよ」
イリア「なるほど……ほら、この隠しページ、お気に召しませんか部長殿？」
海老沢「？……！こ、この肉色な画面は、エエエロロエレロレロオォゲエエエムッ？なななに男向けのページ開いてんのよ！」
イリア「ふふ、あわてちゃって。違うわよ、よく見て」
海老沢「男？上になってるやつも下であえいでるやつも男？」
イリア「そう。ボイーズラブゲーってやつね。知らなかったの？」
海老沢「正直、知らんかった」
イリア「お気に召しましたか？」
海老沢「……わ、割と」
イリア「よかった。この後お店まで買いに行かない？いろいろ教えてあげるわよ」
――数時間後。
海老沢「あ〜、今日はありがとう！なんだか人生がスパーンって開けてきたって感じ！」
イリア「それはどうも。また、いろいろ遊びに行きましょうね」
海老沢「うん！あ、ゲーム、わからなかったら攻略聞いてもいい？」
イリア「（苦笑しながら）いいですよ」
――海老沢部長、妙につやつやした顔で去っていく。イリアほっと息をつく。そこへ。
豪太郎「イリア君じゃないか」
ねじ子「あ、イリアさん、お久しぶりです〜」
イリア「お久しぶりです。お体の方、もうよろしいのですか？」
ねじ子「おかげさまですっかり。年明けからバイトも始めることになりました〜」
イリア「それはよかったですね。今日は、お買い物ですか？」
豪太郎「ああ。年末年始、遠出ができないからせめてホームシアターでも充実させようかと思って。やっぱり映画は家でのんびり見るのがいいよね。試写会はなんだか騒がしくて見た気がしないな」
イリア「ええ」
豪太郎「そうだ、もうすぐ王子が来るけど、ホテルの方はちゃんと取れたかい？」
イリア「え……ええ、手配いたしました」
豪太郎「それはよかった。あの子またウィークリーマンションに泊まるって言ってたから、心配してたんだよね。いや、あのホテルなら安心だ。よかった、よかった」
イリア「……」

――その日夜。自室にて電話中のイリア。
イリア「Guten Morgen?……ああ王子、イリアです。申し訳ありません、ホテルの予約が……さすがに今から都内は無理でした。それで王子さえよろしければ、私のマンションをお使いいただいて……ええ、私は構いません、むしろお世話させていただくという感じで……はい、それでは来週の土曜日。成田でお会いしましょう。失礼します……ふふふ、ふふふふふ！やるわよ！やるわよ！」