大富豪同人物語：Web連載版

――日曜夕方。ファミリーレストラン「ハーベストムーン」三軒茶屋店。
ぷぢ子「ねじ子のやつ、おっせーなあ。コーヒーもお代わりしまくったし、いったん家帰るかな……」
――タイヤを鳴らしながら、よたよたとトヨタ・ヴィッツが駐車場に入ってくる。
ぷぢ子「おうおう、大丈夫？」
ねじ子「ごっめーん、待たせちゃった？」
ぷぢ子「待ったよ、二時間。妙蓮寺からここまで、そんなに渋滞ひどかったのか？」
ねじ子「ううん、道間違えた。なんか多摩川沿いに走ってたはずが羽田空港まで行ってたり、戻ったら秋葉原の辺だったり」
ぷぢ子「レンタカーでもカーナビつきにすればよかっ……ついてるじゃんか！どうやってそこまで間違えるんだよ」
ねじ子「だって、一度道をそれるとパニックになっちゃって。進む方向と頭の中の地図とカーナビの画面が、ぐるぐるぐるぐるるぐる……」
ぷぢ子「わかったよ。わかったからメシ食おうぜ。オレもう腹タプタプだけど」
――ふたたび店内。目玉焼きハンバーグをぱくつくねじ子。
ぷぢ子「でさ、どういう心境よ。急にドライブなんか始めて」
ねじ子「先週、その、豪さんと電車で温泉に出掛けたんだけど、これが行き帰り車だったらなあって」
ぷぢ子「何っ！冗談だとばかり思っていたが、本当だったのか！」
ねじ子「大声出さないでよ」
ぷぢ子「やったのか！やったんだな！」
ねじ子「だから声でかいって」
ぷぢ子「豪様とおハメになられたのですね？」
ねじ子「……うん」
ぷぢ子「ふうぅ〜ん」（鼻の穴からタバコの煙を吐く）
ねじ子「なによ、自分だって叩けばほこりぐらい」
ぷぢ子「べえぇっつにいぃぃ〜」（タバコの煙で輪を作る）
ねじ子「ちゃ、ちゃんと言おうとは思ってたよ」
ぷぢ子「いいよ、そんな。他人行儀みたいなこと」
ねじ子「そう？」
ぷぢ子「まぁアレだ、なんだかんだ言って豪さんも健康な肉体を持つ男子だから、そろそろ我慢の限界だったんじゃねーの？ガーハハハハ！」
ねじ子「いや、私の方も、けっこう…」
ぷぢ子「ハァ？」
ねじ子「でも、あそこまでは予想してなかったよ…どこで買ってきたんだろう、あんな柄のストッキング。初めて見たよ…こっちも少しフェチ属性入ってたからよかったけど…」
ぷぢ子「ううぅ……おーまーえーもーかーっ！」
ねじ子「ぷ、ぷぢ子？」
ぷぢ子「（ソファに仁王立ち）困っているふりをして自慢話！愚痴を書いてる様に見せかけて自慢気なフリートーク！お前ら泣き顔系同人女の常套手段なのか!?ぬぅわあぁっ許さーん！」
ねじ子「ぷぢ子ぷぢ子、落ち着いて！座って！それに耳からくさい汁が出てるよ？」
ぷぢ子「なァにが『あそこまでは予想してなかったよ』だ！あーあー豪さんってそりゃもうそっちの方もうまいんだろうなーいいなーうらやましいなー！やっぱり蒼いエロスより年輪を刻んだ男の色気だよなーッ！もう頭に来た！ノロケ自慢はいいから帰れ帰れ帰れー！」
――ファミレスの駐車場。不安げにヴィッツの運転席に座るねじ子。窓越しにぷぢ子。
ねじ子「うわーん、帰りはナビやってもらおうと思ってたのに〜」
ぷぢ子「ゴタゴタ言ってないでスタート！」
ねじ子「え〜ん、リタイア希望だよ〜！」
謎の男「馬鹿っ！レーサーがマシンを止めるのは、チェッカーを受けた後だ！」
ねじ子「？？？」
ぷぢ子「おや、孕（はらみ）のダンナ。レーシングスーツなんか着て、今日は白衣じゃないんですか」
謎の男「今日の私はその名前ではない。超光速の貴公子とでも呼んでもらおうか」
ぷぢ子「超拘束の奇行師？はぁ……どう見ても店長なんスけどね」
謎の男「ドライビングテクニックと聞いて黙っていられる私ではない。アイテムを持ってきた。その昔、レースに人生を賭けていた頃に使っていたものだ。使いたまえ」
ねじ子「ゴーグルですか？なんか、頬に角っこが当たってイタいんですけど。掛けてみますか」
謎の男「いいか、心の眼で走るんだ。行け、ねじ子ーっ！」
ねじ子「エアロモード・チェンジ！ブースト・オン！」
カーナビ「ブーストポッド作動！エンジン臨界点へカウントスタート！」
――ものすごいスピードで走り去るねじ子のヴィッツ。満足げな男、どこかに去っていく。ひとり夕暮れの駐車場に残されたぷぢ子。
ぷぢ子「はぁ……なんだか疲れちゃったよ。あー、自慢話はつまんねーなー。でも人の幸せを素直に喜べないって、二重に苦痛だよなァ……（携帯鳴る）誰だよこんな時に、もしもしィ？……あ、ううん、全然ヒマだったの。今？うん、三茶。いいの？だってそっちも明日バイトでしょ？……いやん、そんなエッチなこと言ったらオヤジみたいよ……それじゃ、半にいつものとこで、ね。……ふふふ、うふふふふふふ！ねじ子、しっかりやれよ！オレはいつまでもお前の味方だよ！ガーハハハ！」