大富豪同人物語：Web連載版

――日曜昼下がり。文京区本郷、秋月家本邸。
豪太郎「せっかくの日曜日に悪いね」
ねじ子「豪太郎さんこそ久しぶりのお休みなのに。体の方大丈夫？」
豪太郎「ああ、僕は大丈夫。普段鍛えてるからね」
ぷぢ子「いや〜古くて歴史のあるお家ですね〜。玄関が広くて風通しもいい、日当たりも申し分ありません。それではさっそくおじゃましてみましょう」
ねじ子「なに人んちで『建もの探訪』やってんのよ」
ぷぢ子「土曜の朝ってあれと『ぶらり途中下車の旅』どっち見るか、悩むのよね〜」
ねじ子「何十年経っても変わらないナビ＝渡辺篤志の五分刈りもいいし、ドクロベー様＝滝口順平の御声も捨てがたいしね〜」
豪太郎「ごめん、その辺のくすぐりってよくわからないんだけど…今日来てもらってきたのはクリスのことなんだ」
ねじ子「え、今度こそお赤飯なの！」
ぷぢ子「それ前にも言っただろ。またなんかヘンなことつぶやきながら、引きこもってるんじゃねえの？」
豪太郎「近いね。最近どうも顔色がすぐれないと思ったら、インターネットにはまってるらしいんだ。ＨＰも作って」
ねじ子「まあ、ああいうのは始めた頃はかかりっきりになっちゃいますからね。（ノートパソコンを取り出す）アドレスはこれ？……うわぁっ！」
ぷぢ子「それではちょっとトップページを覗いてみましょう……いや〜先頭にいきなり赤い字で『私を敵対視する方々へ』という文章が載っていて殺伐とした雰囲気が伝わってきますね〜。そしてばかでかいトップ絵に続いて画面の半分以上がバナーで埋まっている上に、たいへん見にくいレイアウトです。もちろん日記は愚痴が九割以上、掲示板は荒れ放題。どのページも小さくて淡い色のフォントで、右クリックすると出てくるメッセージが『画像パクリ野郎は抹殺！』……いや〜たいへん気分がすさんでくるホームページですね〜」
ねじ子「豪さんごめん、この話私の記憶から消してくれる？」
豪太郎「僕も見て見ぬ振りをしたいんだけど、仕事柄ネットの怖さをよく知っているからね。できれば穏便に指導してもらえないないかなあ」
ねじ子「でもこれって一度は通る道だしねえ。ある程度は仕方ないと思うよ〜？」
ぷぢ子「若いうちはいいんだよ。でも年を取ったある日『あれ？私の肌って水、はじかなくなった？』と気づくと意外なまでにあっさりと『ハッ！こんなくそつまんねえカップリング論争で、人生ムダにしてられねえじゃん！』って改心するんだよ。それからようやく、創作に専念する比較的マターリとした同人女人生が送れるってもんさね」
豪太郎「（ボソっと）じゃあねじ子さんてもうネットバトルとか、やらないんだ……」
ねじ子「（仏頂面で）まだぎりぎりはじいちゃう年頃ですが何か？」
――クリスの部屋。カーテンを閉め切った薄暗い照明の中、ひとり黙々とパソコンに向かう。傍らにはジャンクフードとコーラ。
クリス「まったく…（ばりばり）…何度言えばわかるのかしら…（ごくごく）…こんなやつらのページ、いざとなったら勝平さんに頼んでつぶしちゃうんだから…（もぐもぐ）…」
ねじ子「おじゃまします〜」
ぷぢ子「なんだ暗い部屋だな〜」
クリス「ああ、その辺…（ぐびぐび）…適当に座ってて…（ばりばり）…」
ねじ子「おや？あれだけ私らにつっかかってたこの子が」
ぷぢ子「まるっきりスルーでございますわね」
クリス「だって…（むしゃむしゃ）…いまそんな暇ないし…（ごくごく）」
ねじ子「はあ、そうですか」
ぷぢ子「……ぷぷぷー」
ねじ子「何笑ってんだよぷぢ子」
ぷぢ子「だってさ……ほら……」
ねじ子「あ……そうね！くすくす」
ぷぢ子「あのクリスが……ガーハハッハ！」
ねじ子「ぶっひゃひゃひゃ！」
クリス「……ああもう！何しに来たのよ！」
ねじ子「それは君の本当の姿を見るためさ」
ぷぢ子「えいっ！」
クリス「きゃっ」
ねじ子「あれだけスリムだったのに、ネットにかまけて間食ばっかりしてたから、ほら」
ぷぢ子「こうやってＴシャツの上から、スポーツブラの下のとこ指でつまめば」
ねじ子「ぷにっ。ふふふふ」
ぷぢ子「ぷにっ。ひひひひ」
クリス「し、知らなかったわ。確かに最近体が重いと思ったら。さっそくダイエットしないと」
ねじ子「いや、やらなくていい！」
クリス「？」
ぷぢ子「だってデブや痩せには悪人もいるけど、小デブは善人が多いんだよ〜。オレたちみたいにさ！」
ねじ子「ぷにっ」
ぷぢ子「ぷにっ」
クリス「いやああぁぁっ！」
ねじ子「そう言わずにさあ、もっと引きこもってばくばく食べようよ〜」
ぷぢ子「夜中にコンビニまで唐揚げ買いに行こうよ〜」
ねじ子＆ぷぢ子「小デブで死んだ奴はいないよ〜。背中に段ができてこそオレたちの仲間だよ〜。ねえってばさ〜」
――一週間後。
豪太郎「どうしたんだい？最近早く寝てるみたいだけど、ネットやめちゃったのかい？」
クリス「やめてないけど、なんか、あそこまでのめり込むとまずいっていうか、人生ムダ使いできないっていうか。本を読んだり書いたり、コスプレのためにダイエットしたりする時間が大切な気がしてきたの」
豪太郎「まさかもう、はじかなくなったんじゃ、ないよね？」
クリス「？？？」