大富豪同人物語：Web連載版

――金曜放課後。帰宅途中のクリス。
クリス「よし、ここまで来れば安心、と。趣味がアニメってクラスのみんなには内緒だから、雑誌を買うのも一苦労だよね。あ、『なかよぼん』だ。なつかし〜。中学入ってから読むのやめちゃったけど、小学生の時は全プレ応募するほどハマってたなあ。いまはどんなマンガが連載されてるのか……な？」
――表紙をめくったクリス、次の文章を見て固まる。

これは不幸の「なかよぼん」です。このページを見たあなたは「なかよぼん」今月号を十冊買わないと不幸な目に遭います。警告を無視した姫乃王子先生は、夫婦で原稿を落とす病にかかりました。

――土曜日。文京区本郷、秋月家本邸。
クリス「というわけ。おかげで今週のお小遣い全部使い切っちゃった！あったま来てるんだから！」
ねじ子「なんだ金持ちのくせにシケた家だな〜。もっといい茶菓子出ないの？最低限モロゾフだよな」
ぷぢ子「大人二人呼びつけてコージーコーナーはないよな〜。あとこの紅茶出涸らしじゃないのか？錆びた水道水みたいな味と色だぜ」
クリス「人の話、聞いて下さい」
ねじ子「ていうかよォ、ふつー信じるかそういう話。中学生にもなって」
ぷぢ子「まぁ、毛も生えそろってないお子ちゃまだからしょうがねえか！ガーハハハハ！」
クリス「（下を向きながら小声で）……ンだよォ、生えてりゃ偉いのかよォ……二人まとめて風呂に沈めッぞゴルァ」
ねじ子「やばいっ！どこで憶えたか知らないけど、このままでは新種のアニオタが生まれてしまう！」
ぷぢ子「ドキュンヤンキーで組織的暴力犯罪を目論むアニオタなんかが大量に出現したら、『ヒロインがほしくて幼女誘拐』どころじゃない事件が続発！オタにとって迷惑この上ないよ！」
ねじ子「おおおお姉さん達にできることがあったら」
ぷぢ子「そそそそ相談に乗るわよクリスちゃん」
――文京区一ツ橋。「なかよぼん」編集部。
編集長（声・大林隆之介）「いや〜企画を聞いたときは信じられなかったけど、まさか本当に売り上げが十倍になるとはね〜！」
編集員（声・緒方賢一）「ふふふ。おまじないやオカルトに弱い少女達の心を見抜いた私の手腕、いかがでしょうか？」
編集長「今度の人事異動、君を押しておくよ！とりあえず今夜あたり一杯どうだい？」
編集員「申し訳ございません、本日は市場調査の予定が入っております」
編集長「いや〜仕事熱心で感心感心、これからも頼むよ！」
編集員「ありがとうございます。（小声で）フッ、ロリコンだの童貞だのと入社以来二十八年、バイト時代を含めると三十年間、さんざんっぱら人を小馬鹿にしてきやがって。昇進したら思い通りに『なかよぼん』を変えてやる。まず今の連載陣をすべて切ってオレの息が掛かった同人作家達を……」
――「ピシッ！」突然、二つに裂ける「なかよぼん」在庫。
編集長「誰だ！」
クリス「動かないで！私のトレカはよく切れるわよ！」
編集員「なんと」
ねじ子「ほらほら、おとなしくこちらさんの言うとおりにするんだよ！」
ぷぢ子「乙女の怒りをなめると痛い目に遭うよアーウ？（上がり調子）」
編集員「編集長。両脇の二人はどうでもいいとして、真ん中の子、使えると思いませんか？」
編集長「君もそう思うかね！実は本誌でもミュウミュウなんとかみたいなアイドルグループ、タイアップでやってみたかったんだよね〜」
ねじ子「どうでもいいとはなんだとゴルァッ！」
ぷぢ子「こいつらも生えてない小娘でしか勃たないフニャ童貞どもかゴルァ！」
編集員「……童貞？童貞と申されましたか……聞き捨てなりませんな（自らワイシャツを引きちぎり、必要以上にビルドアップした上半身を見せつける）この私に、そのような言葉をオォッ！」
ねじ子「ギャッ！オレたちまた地雷踏んじまったのかよ！」
ぷぢ子「またいやな感じに焼けた肌だよな〜。肝臓の悪さも目立たないくらいに」
編集員「お嬢さん方ゴタクはそれくらいにして、この私を童貞と罵った罰を」
ぷぢ子「ねじ子、アレやれよアレ、豪太郎さーんて」
ねじ子「そうね、助けてーっ！」
クリス「だめよ、お兄ちゃんは海外出張中なの」
ねじ子「うわーっ！どうしようもなく絶体絶命な感じ〜！」
ぷぢ子「どうせならボーイズラブ誌の編集部で、前のめりになって死にたかった……」
編集員「ではせめてもの情けでひと思いに……ん？」
――フロアに響き渡るエンジン音。
ねじ子「うそ、豪さん？ていうかここ三十八階！」
ぷぢ子「まあ、あんたの彼氏ならやるだろうなー」
クリス「でもお兄ちゃんのバイクとは、ちょっと音が違うみたい……」
――編集部のあるビル前で急停止する大型トレーラー（メルセデス・ベンツＡＣＴＲＯＳ　２５４０）。そこから降り立ったのは
イリア「♪パクリだらけの〜アニメはもういら〜ない〜……おい編集部！全国から寄せられた『不幸のアンケート葉書』、たっぷり持ってきたぞ！この葉書の言う通り読者に返金しないと、売り上げが落ちたりアニメ化の話がポシャったりアシが漫画家や編集部に手ぇ出されてボロキレみたいに捨てられた過去バクロったり『なかよぼん編集部ってどうよ同盟』のバナーがあちこちのＨＰに貼られたり『なかよぼん』公式掲示板が厨房くさい金切り声な書き込みで埋まったりと、ありとあらゆる不幸がこの編集部を襲うぞ！」
編集長＆編集員「うわあ、お金はお返ししますから、それだけは勘弁を……」
ねじ子「イリアさん、すっごーい！」
ぷぢ子「しかし、なんともでかい車だね〜」
イリア「このトレーラーにはＧ３システムが装備してあるのよ」
クリス「青いライダーマンみたいになるやつ？」
イリア「あなた十四歳じゃなかったの？……Ｇ３とは『ぎりぎりになってから原稿をがんばろう』の略で、カーゴを開けると、ほら」
ねじ子「わお。机とコピー機とパソコンと、ＤＴＰその他一式に画材までもが」
イリア「これでイベント会場や印刷所に向かう途中でも、原稿が描けるわよ」
ぷぢ子「アギトねえ……オレたちに当てはめてみるとイリアが小沢さんでクリスがＧ３でねじ子がアギトで……やり！オレっちギルス！一匹狼ラヴ！豪太郎さんは……なんだろう？」