大富豪同人物語：Web連載版

――日曜日。パソコン同人ソフト即売会で、スペースを構える勝平（徹夜明けで爆睡中）。いそいそとメイド姿で売り子のクリス。やや投げやりな目で見守るねじ子＆ぷぢ子（お目付＆お手伝い役）。
クリス「はぁ〜い、『へ−０５ｂ 勝平工房』はこちらでーす！あなたのデスクトップにも、ポリゴンメイドさんマスコットをどうぞ〜！」
ぷぢ子「（小声で）奥様ご覧になりました？最近のお子さんは怖い者知らずですわね〜」
ねじ子「（小声で）拝見しましたざぁますわ〜。旦那様が知らない間にミニスカのケツなんか振っちゃって、大胆ですわね〜」
クリス「邪魔するんなら帰って下さいよぉ。搬入も終わったんだし」
ねじ子「んまッ！あたしたち用済みってことざますか？んまッ！んまッ！ちょっとばかり自分の自由になる活きのいいティムポがあるからって、なんざましょそのお言葉！」
ぷぢ子「……悪ィ、そのツッコミはかえって墓穴なんじゃないのか？」
ねじ子「言うなよ、オレだって言った後ツラくなってるんだ」
ぷぢ子「なんでつるぺた同士、仲良くできないかねえ……」
ちょっとキザっぽい長髪の客（三木真一郎）「体が大人だったらＯＫなんだよ！」
クリス「？ナ、ナンパですか？」
ねじ子「お、めずらしくいい男じゃん」
ぷぢ子「しかし見事に浮いてるなー。ユニクロじゃないブランドもの着てる男子って、会場でこの人しかいないし……ハッ、この匂いは」
客「さすが秋葉原の守護神、俺の香水を憶えているとは。いかにも俺はエロゲー四天王が一人、批評のヨージ！」
ぷぢ子「誤解する言い方はやめれ！あんたの香水、売場で異臭騒ぎが起きた原因だったじゃないか！」
ヨージ「いやあ、客の体臭の方が騒ぎになりそうな真夏日だったから、つい多めに……じゃない、よくもあの日以来、俺を出入り禁止にしてくれたな」
ねじ子「あの店って香水キツいくらいで、出禁（できん）になるかなあ」
ぷぢ子「違うよ。売場に自分で書いたエロゲーレビューを勝手に張り出してたんだよ」
ねじ子「あきれた」
ヨージ「フッ、売り上げ第一の商業主義に毒されたお前達にはわかるまい。真にエロゲーを愛する俺だけが見える、俺だけのエロゲー批評！もはやノルマに追われる業界に明日はない！エロ格ゲーもエロＲＰＧもエロネットゲーもエロ新次世代機もすでに終わった！なぜ誰もそれに気づこうとしない！」
ねじ子「即売会じゃよくいるタイプだけど、こうやって目の当たりにするとキッツいな〜」
ぷぢ子「やはり野に置け月見草……ってドクダミか？ガーハハハハ」
ヨージ「おのれえっ！」
勝平「ふあぁ〜よく寝た……あれ、お客さん？」
クリス「なんでもないわよ、勝平さん。休んでた方がいいわ、マスターアップが終わったばかりで疲れてるんでしょ？」
ヨージ「マスターアップ？」
勝平「え、ああ。昨日アップしたんですよ、『げえせんパーティー２』。僕、メインプログラム組んでるんです」
ねじ子「うわあ、そんな火に油注ぐような事言っちゃあ……」
ヨージ（急に猫なで声で）「あ、あれ〜？ひ、ひょっとしてそちら、か、勝平さんですかぁ〜？ホームページ見てますよ〜（心底穏やかな笑顔）」
ねじ子「おや。下手（したて）に見えていやになれなれしい口調。そして妙に湿った熱い目線」
ぷぢ子「あら。相手の出方と距離を計るような、微妙なまでの語尾の上がり方」
ヨージ（すごく興奮しながら）
「私あれ、期待してたんですよ〜。前作すごくやり込んですよ〜。エロゲーだからっていう偏見抜きで、あれいい作品ですよね〜。シナリオ泣けましたよ〜、特に母子家庭少女とのハッピーエンディング。でも雑誌の攻略とか参考にしないで、全部のＣＧ見たんですよ〜。すごいでしょ〜。あと、グッズ安く手に入りませんかね〜？キャッチャー人形、１体だけ取れないのがあったんですよ〜。でも愛があるからヤフオクの転売モノじゃだめなんですよ〜。あ、新作のお話も聞きたいなあ〜。システムとかどう変わってます〜？」
ねじ子「なんだ。孤高の論客を気取っているかと思ってたら、単なる業界かぶれのくされマニアであり」
ヨージ「うぐっ」
ぷぢ子「しかもその批評も『まず否定ありき』の実のないものであり」
ヨージ「げぇっ」
ねじ子「似たようなやつらが集まれば、相互批判で一日が暮れてしまうのであり」
ヨージ「えぇん」
ぷぢ子「抜けないエロゲーにぶつかれば、下半身むきだしのまま怒りのレビューを書き上げてしまうこともあり」
ヨージ「やめてん」
ねじ子「それでいてグラフィックとアヘ声データだけ抜き出して焼いたＣＤ−ＲＯＭを、大切に大切にファイリングしてあり」
ヨージ「はにゅうん」
ぷぢ子「即売会でおカタい批評本を売り、ロクすっぽ遊びもしないで作ってある同人女のゲーパロ本を横目で睨みつつも
『コスプレ少女が俺様の論調に感動して、売り子をやってくれないかなあ』
という妄想がずっと頭の仲を渦巻いており」
ヨージ「うわあぁん」
クリス「勝平さんのお仕事って、こんな人たちが相手なの？」
勝平「最近では珍しいタイプだね」