大富豪同人物語：Web連載版

――例によって日曜の朝。ねじ子のアパート。
ねじ子「くそう、この年になって『も〜っと！おジャ魔女どれみ』見て涙ぐむとは思わなかった。なんかまっとうな作りだよなあこのアニメ。ううっ。でもこうしちゃいられない。アレを作らなきゃ……」
――２時間後。
ねじ子「ぎゃーっ！まるでコント！もうすぐ引っ越すからって台所汚しまくり！なんで私ったらチョコひとつ満足に溶かせないの？溶かせないの？この年で私ったらどれみちゃんたち以下？以下？」
謎の声「それはお前が三石声だからさ！」
ねじ子「誰！？」
ぷぢ子「さすらいの流れパティシエ、ボンソワールぷぢ子参上。さっそくだがねじ子、あんたの料理には重大な欠点がある」
ねじ子「え？」
ぷぢ子「どこの世界に直火で溶かすやつがいるんだよ……湯煎しろよ湯煎！」
ねじ子「どうりでお鍋がどんどんダメになっていくはずだ」
ぷぢ子「気づけよ！あ〜あ、これホーローのいいやつなのになあ」
ねじ子「大丈夫よ、買って５年経つけど今日初めて使ったんだから」
ぷぢ子「余計まずいだろう！しょうがないなあ、この近くにショッピングセンターあったろ？材料と鍋買いに行こうぜ〜」
――スーパー「なりゆき」バレンタイン特設コーナー。
ねじ子「この際だから言うけどさー、実は私、バレンタインチョコ作るの初めてなんだよ〜」
ぷぢ子「学生の時とか、やんなかった？」
ねじ子「ぜんぜん。期待されなかったし」
ぷぢ子「職場では？」
ねじ子「一度義理でみんなにあげたら、えれえ勘違いしたバカが舞い上がって。もうこりごりって感じで」
ぷぢ子「いるよな！いるよな！どう考えても義理なのに、死ぬほど舞い上がって、それからこっちにムリして敬語使い始めるのが」
ねじ子「ブランド見ろってーの。誰がお前クラスにゴディバなんかやるかよ」
ぷぢ子「女子に対するリアクションがゼロか１００なんだよ。慣れてなさすぎ」
ねじ子「いや〜毒はいいねえ。胸がスッとするね」
ぷぢ子「あんたの胸はいつでもスッとしてるじゃんかよ」
ねじ子「いいんだよ！胸は２つあれば！そんな８０とか９０とかいらないんだよ！」
ぷぢ子「まあ自慢じゃないが９５だけどさあ。でもこれくらいになっちゃうと、もう国産でサイズないんだよ。あっても綿かナイロンだし。やっぱ高いけどデリケートなとこってシルクじゃないと居心地が悪いしそうなると上下揃えた上でガーターやボディースーツも同じブランドで揃えないと気持ち悪いよね？誰に見せる訳じゃないけどさ、やっぱ女子の何たるかっていうのはこういう所に何割かは」
ねじ子「くわーっ！」
クリス「あら、お久しぶり」
ねじ子「おお、友よ！やっぱりつるぺたって正義だよな！」
クリス「？？？」
ぷぢ子「（小声で）同類相憐れむ、か……」
クリス「お二人もチョコ作り？」
ねじ子「そう。クリスは勝平君に？」
クリス「ええ」
ぷぢ子「いいよな〜初チョコ。しかも処女から」
ねじ子「それは関係ないんじゃないか？」
クリス「メッセージカードを添えようと思うんですけど、どんなのがいいですかね」
ねじ子「『南極の雪は白かった。白組がんばれ・南極観測隊員一同』」
ぷぢ子「『インパクトの瞬間、ヘッドは回転しています』」
クリス「真面目に考えて下さいよ」
ねじ子「いいんだよ若いんだから、そんな小細工しなくたって！ちょっと思わせぶりに呼び出して、頬赤らめて手渡しゃあ男なんてイチコロだぜ！」
ぷぢ子「もちろんその後は全裸にリボンで、私をプレゼントってやつだ！たまんねーよなガーハッハハ！」
クリス「どこをどう経るとこんな人になっちゃうかなあ」
ねじ子「女も四半世紀やってるといろいろあるんだよ！」
ぷぢ子「お前もこれからどんどん汚れていくんだよ！」
クリス「……イヤだなあ」
ねじ子「はいはいわかりましたよ。ご清潔なクリス様は放っておいて、チョコ作りに帰ろうぜ」
ぷぢ子「ああ、帰ろうぜ」
クリス「（ボソっと）お兄ちゃんはわりとシンプルな味のチョコが好きなのよね。昔から」
ねじ子「（土下座して）お嬢様！私めをどうか犬とお呼び下さい！」
クリス「わかればいいの。行くわよ、駄犬」
ねじ子「ワンッ！」
ぷぢ子「（小声で）こういうところで役者が違うんだよなあ……」
――ふたたびねじ子のアパート。
ねじ子「できた！信じられない！ちゃんとハート型になってるし！」
ぷぢ子「な？やりゃあできるんだよこれくらいは」
クリス「クセのない味だし、これならお兄ちゃんもきっとおいしいと思うわね」
ねじ子「やったよーっ！こんなうれしいバレンタイン、初めてだよ〜！」
ぷぢ子「（喫煙中）でさあ、問題なのはなんでねじ子が今になってワンルームから２ＤＫってことだよな」
クリス「お兄ちゃんがお金半分出すって言ってたけど、そんなくらいなら結婚しちゃえばいいのにね」
ねじ子「これで豪太郎さんも喜んでくれるし。ううう」
ぷぢ子「まだまだ遊びてぇんじゃねぇの？豪さんも。ああは言ってても基本的にモテモテな人だしさあ」
クリス「そうよねえ」
豪太郎「それは僕から説明しよう！」
ねじ子「キャーッ！豪太郎さん！いつの間に合い鍵を……」
ぷぢ子「やっぱり気兼ねなく声を出せる部屋が欲しいとか？」
豪太郎「違います」
クリス「いよいよご結婚？」
豪太郎「それも違う」
ねじ子「じゃあ何なんですか？」
豪太郎「遅ればせながら、最近チョコエッグにはまっちゃって。一部屋借りてコレクションを整理しようと思ってたんだ。ねじ子さんちなら泊まりもできるし。今もほら、こんなに買ってきちゃ」
ねじ子「……ボディが、甘ぇぜ！お留守だぜ！がら空きだぜ！ 喰らえぇっ！（チョコを豪太郎の口に押し込む）」
豪太郎「うがっ（失神）」
クリス「ばびっとやっつけられちゃったぞ！」
ぷぢ子「そのまま死ね……」