大富豪同人物語：Web連載版

――とある地方都市。実家で思いのままくつろぐねじ子。
ねじ子ママ（声・千々松幸子）
「んもう、お正月だからっていつまでもゴロゴロしてないでよ」
ねじ子「だって、明日には横浜戻っちゃうから。もう少しゆっくりさせてよ〜」
ママ「戻ったってマンガばっかり描いてないで、少しは男の人とか」
ねじ子「あぁうるさいなぁ〜コンビニ行ってきま〜す」
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ねじ子「でも正月だから新しい雑誌も入ってないし、こんなコピー機もない地方のコンビニじゃなあ。メジャー系の店じゃ見たことのないエロ本も多いし。たまには女性誌でも買ってみるか」
店員（声・上田祐司）「あれ？ねじ子じゃねえか」
ねじ子「祐司くん？そうか、ここ祐司くんちの酒屋さんだったもんね」
祐司「久しぶりだなあ、元気してっか？」
ねじ子「うん、祐司くんこそ元気そうだね」
祐司「実は嫁さんもらってさあ。もうすぐ二人目も産まれるんだ」
ねじ子「うわ、おめでとう。がんばらなくちゃね」
祐司「……ああ」
ねじ子「どうしたの？」
祐司「実はよぅ、駅前にホール、あったじゃんか。オイラ達がよく即売会開いたとこ。あれが改装されちまったんだ」
ねじ子「そう言えば工事してたよね。広くなるからいいんじゃないの？」
祐司「違うんだ。なんだかよそよそしくなって、企業のイベントばっかり入れちまうんだ。もう同人誌やコスプレパーティーになんか、貸してくれないんだ」
ねじ子「維持費が高くなったのかなあ」
祐司「こんな小さな街で数少ない娯楽のひとつだったのに、どうなっちまうんだろうねえ」
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ママ「確かあの建物、県会議員の碁根督（ごねとく）さんがオーナーだったかしら。最近亡くなって、息子さんに代替わりしてから立て直したらしいわよ」
ねじ子「なるほど」
ママ「ここら辺、碁根督のお父さんのお陰で下水も来たし道路も広くなったけど、そう言えば息子さんはお金儲けばっかり夢中で、いい評判は聞かないねえ」
ねじ子「……」
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その夜。なかなか寝つけないねじ子。昼間に言われた言葉が脳裏にオーバーラップしていく。
ねじ子「うわーっ眠れない！やっぱり同人を阻む者は誰であれ許せないわ。こうなったらあたし一人でも（携帯が鳴る）……もしもし？」
――翌日。ホール完成パーティーで挨拶する碁根督Ｊｒ（声・島田敏）。
Ｊｒ「本日はみなさま、ようこそいらっしゃいました。当ゴネトクホールも無事リニューアルを終え、２１世紀にふさわしい建物として生まれ変わりました」
祐司「やいやいやいやいっ！オイラ達の楽しみを奪っておいて、何がリニューアルだ！（警備員に連れ出される）」
Ｊｒ「私がオーナーになったからには、戯れ言は控えてもらおうか。失礼しました、それではこけら落としとして、本場ウィーン大学フィルハーモーニー管弦楽同好会の演奏で、ドヴォルザークの新世界をお聴き下さい」

♪（トランペットのソロが始まる）

Ｊｒ「あれ？新世界ってこんな曲だったかな」
指揮者（なぜか羽織袴姿＆いやに響くエコーで）
「先代の碁根督は違いのわかる男だったが、二代目はつくづく見下げた男だな」
Ｊｒ「何奴！」
指揮者（スポットライト当たる）
「貴様も端くれとは言え関連企業の一員。私の顔、見忘れたとは言わせんぞ」
Ｊｒ「はっ！ご、豪太郎様！」
豪太郎「遊び心の何たるかも知らずこの醜態。潔くその職、辞するがいい」
Ｊｒ「……おのれ、豪太郎様の名を騙る不届き者め、出合え出合えっ！」
――Ｊｒの配下が豪太郎を取り囲む。
Ｊｒ「かかれっ！」

♪「暴れん坊将軍」のテーマ（作曲・菊池俊輔）を演奏する管弦楽同好会

豪太郎「でやっ！」
配下「ぐわーっ！」
ねじ子（くの一装束で乱入）「とぅっ！」
配下「ぎえーっ！」
豪太郎「残るは貴様だけだな。成敗！」
Ｊｒ「ぬわーっ！」
豪太郎「二代目の重みに負けた哀しい男よ……」
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――豪太郎の車で横浜に帰るねじ子。それを見送る人々。
祐司「ありがとうよねじ子、おまえのお陰でオイラ達また即売会を開けるようになったぜ。そっちの旦那にもよろしくな！」
ママ「ねじ子の母でございます。このたびは、娘がこのような」
豪太郎「いやあみなさん、お気を使わずに。またお会いしましょう」
ねじ子「またね、お母さん、祐司君」