大富豪同人物語：Web連載版

――ふたたび秋葉原。「ダイナマイト電器PC館」前にて。
「すみませんねじ子さん、せっかくチャンスをいただいたのに」
「いいのよ、あなたには別の手を用意したわ」
「別の？」
「コスプレよ。メイドのコスプレなら14歳でも十分できるわ」
「でも、あたしコスプレってやったことないです」
「大丈夫、いい先生を紹介するわ。ほら」
「え？」
――ねじ子が指さした先、ものすごい勢いでPOSレジを操作する、ダイナマイト電器店員・ぷぢ子（声・林原めぐみ）。
「あの方が？あまりそうは見えないんですが……」
「人は見かけによらないものよ。（店内に向かって）ぷぢ子ー、連れてきたわよー！」
「おおっ、ねじ子！もう少しで休憩入るから待っててくれ！」
「にしても忙しそうね。いつもは内勤のあなたまでレジ打ちだなんて」
「例のエロゲー、初回特典つきで再出荷したからな！ったく他にやることねえのかこの男どもはよォ！」
（レジの客その１）「ぷぢ子たん、ハアハア……」
（レジの客その２）「ああもっと罵声を〜」
（レジの客その３）「ラッキー！今日は三つ編みのオプションつきだぜ！」
――ダイナマイト電器の裏手、カラオケBOX「夢次元ハンター」にて。
「ということで、だいたいの傾向と対策は、これを読んでくれればわかるわ」
「はい」
「クリスちゃんて言ったね。コスプレの基本は、何はともあれビキニラインです」
「ビキニ？」
「おまたの毛よ。かつてどれほどのコスプレイヤーが、ここの手入れを怠ったためにカメラ小僧の餌食になったことか」
「で、でもあたし、メイドのコスプレですし」
「甘いわ！最初はおとなしめのコスチュームでも、回を追うごとに人は大胆になっていくのよ」
「はあ」
「初めは普段着や学校の制服に毛の生えたようなコスをしてた子が、ちょっと取り巻きやカメラに誉められたくらいで『あたしって、才能あるんじゃないかしら？』『あたしの居場所って、ここじゃないかしら？』とか勘違いしやがってミニスカだのタンクトップだのを着始めたらレオタード系コスに行き着くのは時間の問題なのよ、でもスクール水着以外着たことないから手入れなしサポーターなしで白レオタなんか履いちゃってそらカメラはウハウハでんなあ、そのうち撮影会だってホテルに連れられていい感じで脱がされちゃってもまだ気づかないで写真が海外のエロHPにアップ」
「ちょっとぷぢ子」
「ああごめん、オレ様私怨ちゃんになってたよ。というわけで、ビキニラインは大切なのよ」
「でもあたし、必要ないです」
「へ？」
「だって、ほら」
（ねじ子＆ぷぢ子）「うわーっ」
「クラスでもあたしだけまだなんです。ちょっと恥ずかしくて」
「……どうよねじ子」
「豪太郎さんの趣味じゃないといいけど」
――翌週。ぷぢ子の指導の元、寸分の隙もなくメイドコスを着こなすクリス。見守るねじ子。
「うわーこういう時ハーフっていいわよねえ。白い肌に栗毛が生えるなあ」
「さっきから何度もカメラに撮られてるんですけど、なかなか会えないものですね」
「気長に待ちましょう」
――そこへ歩いてくる男（声・山口勝平）。トランシーバーのヘッドセットに向かってつぶやいている。
「ああ、そっちの買い物終わったらいったん集合しましょう。戦利品もチェックしたいし……うわっ」
「きゃっ」
「大丈夫、クリス？……ちょっと、気をつけて歩いてよ」
「ごめんなさい。新刊が気になっちゃって……」
「あ、その声は」
「君は！」
「あの時はありがとうございました。あなたにお会いしたくて、ほら、メイドのコスプレを」
「え？ほんとう？うれしいなあ。でも、惜しい……」
「どこかまずいところがあるんですか？」
「完璧すぎる」
「カンペキ？」
「メイドさんはドジっ子じゃなきゃいけないんだ。お皿割ったり、モップふんずけて転んだり、コーヒーご主人様にぶっかけたり、とにかくスキがある方が魅力的なんだ」
「それなら自信があります！あたし料理もヘタだし動きも鈍いです！」
「でも特技は一つくらい」
「ピアノが弾けます。ご主人様が疲れたときに慰めてあげます」
「それだ！ドジっ子だ！ドジっ子メイドだ！ああ、こんな素敵な女の子が世の中にいたなんてーっ！」（ぎゅーっ）
――１ヶ月後。池袋のゲームセンター「来やがれ待ち野郎」にて。
「あー、新作出てるよ」
「あのチーフが作った奴でしょ？」
「ロケとちがうなあ……金髪のメイドさんがキャラに入ってる」
「自信を持ってお届けって言ってたの、この事なのかなあ」