大富豪同人物語：Web連載版

――日曜の昼下がり。街道沿いの健康ランド「ヘルスセンターアマゾン」内のファミレスにて、一人杯を重ねるねじ子（ランドそなえつけの赤のアロハシャツ着用）。
「ぷわーっ！脂肪ガンガン付くのが目に見えていても、やっぱ昼間のビールと唐揚げはやめられないなあ。しっかし健康ランドでこんな食事してたら、全然健康じゃないよなあ。一日中スポーツ番組見てても、全然スポーティーにならないのと同じだよな。あー、だけどこれからどうしよう。またジャグジー入ってビール飲んでサウナ入ってビール飲んで……お金のない日曜って憂鬱なんだよなあ。だからって家にいるとつい昼寝しちゃって起きると夕方だし、そこから買い物して夕飯作って、鉄腕DASH!!→特命リサーチ→あるある大辞典のコンボで気が付くともう日曜終わっちゃうし。ああ、結局貧乏な人間は何やっても憂鬱なんだよチクショーッ！もう一杯ジョッキ追加！……ん？」
「あちらのお客様からです」
「あら何かしら……って、洒落た夜景の見えるバーならともかく、こんなレバ定とかプリンとかも出てくる店で誰が気取ってカクテルなんか」
「やあ」
「キャーッ！豪太郎さんーッ！しかも誰が着ても似合わないアロハ（青）まで！」
「ずいぶんご機嫌斜めの様だね」
「黙って見てないでよ！酔いさめちゃったじゃない！」
「ごめんごめん。わりと楽しそうに見えたんで」
「楽しいわけないじゃない。給料日前の日曜なんて」
「そうか、それでデートの誘いも」
「いくらお金持ちだからって、なんかまだ丸抱えしてもらうのも悪いし」
「そうだね。じゃあちょっと小遣い稼ぎを紹介してあげよう」
「いや、ありがいんだけど、その」
「なんだい」
「飲み過ぎちゃって、しばらく動きたくないんですけど……」
「大丈夫、ここでできるアルバイトだよ」
「？」
――２時間後。健康ランド内のカラオケステージにて。
「あのー、豪太郎さん？」
「なんだい、ねじ子さん」
「なんであたし、白のとっくりセーターにデニムのロングスカートなんか着てるんですか？袖は手首じゃなくて手のひらまで伸ばせ、とか指示出てるし」
「本当は今日ここでアイドル声優のライブがあったんだけど、さっき風邪で行けませんって連絡があってね。知り合いのプロモータに泣きつかれて、代役を捜してたところだったんだ」
「あたしなんかでいいんですか？」
「再来月にデビューする新人アイドル声優ってことで客には紹介してある。大丈夫、本物だって素人に毛の生えたようなやつだし」
「はあ……でも、客席が異様に男くさくてイヤなんですけど。デジカメとノートパソコンと携帯をくっつけて、自前でライブ中継してる人もいるし」
「細かいことは気にするな！」
「は、はい」
「キミはこれから30分、スターになるんだ。あがらなくていい、客はキミの下僕だ。何をしようが、やつらはキミの言うなりだ、いいな！」
「はいっ」
「よし、幕を開けるぞ」
「（うわあ濃いお客さんがいっぱいだ……どうにでもなっちゃえ！）てめえら、よくもあたいのステージなんかに来やがったな！」
「ウオーッ！」
「いい年をした男どもがそろいもそろって、他にやることねえのかよ！」
「ウオオーッ！」
「うるせえ！騒ぐな！童貞がうつるだろうが！」
「ウオオォォーッ！」

――客席最前列にて。ファンがうれしそうにつぶやきあう
「すごいよー！この女、デビュー前からファンも仕事もナメ切ってるよー！」
「いっそここまでやってくれると清々しいよな！」
「代役だって聞いたから帰ろうかと思ったけど、こっちの方が全然いいよ！」
「オレ絶対ファーストアルバム石丸で買うよ！握手会行くよ！」
――ステージ裏手にて、プロモーターと豪太郎
「すごいですよ豪太郎さん、あの人MCだけでとうとう30分持たせましたよ」
「言ったとおりだろう？彼女は天才なんだ。自分で気がついてないだけなんだ」
「いっそ本当にデビューさせたくなってきましたよ」
「ははは、それはダメさ」
「誰よりも熱心なファンがもういるから、ですね？」
「ま、そういうことだね」