大富豪同人物語：Web連載版

――金曜日の午後。有明。豪太郎のオフィスにて。
「ふぁ〜、オヤジ連中相手の会議は退屈だなあ。いくら頼まれたってあんなつまらないCG映画に投資するわけないだろうが〜。あれだったら大泉に電話して『透明ドリちゃん』のリメイクをやらせるよ〜『インビジブル』のタイアップだって言って」
「社長、ニューヨーク支店から連絡がありました」
「なんだいイリア君」
「レオン様の会社の株が大暴落したようです。前日比95%減まで行ったとか」
「おいおいそりゃ豪毅だなあ。いったい何をやらかしたんだ。やつの事だからまたくっだらない事業に注ぎ込んだのがバレたんだろう」
「くだらないとは何だ」
「うわっ！お前デトロイトの本社じゃないのか」
「こんな失敗をやらかしたらもうあの街には住めん。ミシガン中のむじん君から運転資金を借りたのにこのザマだ」
「なんでまたノンバンクから……ポケモンカードの二匹目を狙って、遊戯ボーイの輸入代理権でも取ろうとしたのか？」
「あんなビジネスに手なんか出せるか。このHPを見てくれ」
「ポータルサイトか」
「ああ。コミック・アニメ・ゲームに焦点を絞って、オンラインショッピングとも連動したHPだ。日本からの情報も逐一入るようにしてある」
「それほど斬新じゃないが、大外しってわけでもないな」
「だろ？社運を掛けたプロジェクトだったのに、開始から３ヶ月経ってなぜかアメリカ国内からのアクセスも注文も皆無なんだ。それを報道されて今日の大暴落だ」
「アメリカに焦点ねえ……」
「我が国はまだ日本ほどその手の市場が熟成してないのか？」
「市場が熟成ねえ……」
「お前なら何かわかるだろう、豪太郎」
「一つ質問があるんだが」
「何だ？」
「なんで日本語のページしかないんだ？」
「あ？」
「ざっと見てみたけど、英語で書いてあるページがないぜ。これじゃあフツーのアメリカ人には何のページだかわからないだろう」
「うかつだった……シブーヤの会社を紹介されたから安心して任せっきりだった……」
「なんでまたそんなとこに外注するかなあ。お前らしいと言えばらしいが、ウチとも取引がある以上、倒産されても困る。不本意ながら手助けしよう」
「このサイトを立て直してくれるわけか」
「手っ取り早く、モノを売ってカネを手に入れるのさ。（携帯を取り出す）あ、ねじ子さん？仕事終わったらこっちまで来てくれないか？デートじゃなくて悪いけど、そうそう、レオンが来てる。ちょっと手伝ってくれないか」
――渋谷ビデオスタジオ。ディレクターのキューを受けて、司会のねじ子喋り出す。
「さて今日ご紹介する商品は、このアブフレックス・ミレニアムです。インストラクターはアメリカからお越しの、レオン・ゴールドバーグさん。いかがですか、使い心地は」
「いやあ、１日わずか１５分のトレーニングで、ここまでビルドアップできるなんて感激です。この商品を教えてくれた豪太郎に感謝します」
「僕もレオンの張りのある肌を目の当たりにできて感激です。アブフレックス・ミレニアムを使えば、男同士でもお互いの肉体美を確かめあうことができるのです」
「そう、アブフレックス・ミレニアムの本当の効果は、トレーニングの後にあるのです」
「トレーニングで酷使した体をマッサージする男パートナー！」
「男の体を知り尽くしているのはやはり男！」
「鍛え上げた肉体同士での、やさしくそれでいて激しいマッサージ！」
「揉みほぐした体を、さらに熱いシャワーが包み込む！」
「パートナーの眼が、上気したあなたの肌を湯気越しに見つめる！」
「わざと忘れたフリをして石鹸を貸し借りする！」
「自分では気づかないところを洗ってあげる！」
「いかがですか、アブフレックス・ミレニアムひとつあれば、あなたもこんな素晴らしい体験が可能なのです！」
「こんな素敵な商品が、ワセリン５ガロンをセットして、たったの９９ドル！」
「今すぐお電話下さい！」