ウイメン・イン・ブラック

「本当によろしいのですか？豪太郎様にお会いしなくて」
　上野駅コンコース。
　帰省客で人があふれる中、コートの男が尋ねた。
「いいのよ。死んだと聞かされていた母親が、今ごろ出てきてもあの子だって迷惑でしょう」
　マーサが答えた。
「それに、いい相手も見つかったみたいだし」
「私もそう思います。素直で賢そうな、お嬢さんでしたよ」
「ありがとう。そう聞くと、なんだか私もうれしいわ」
　笑みを漏らすと、マーサは黒いトランクを手に提げた。
「また何かございましたら、お呼びつけください。それでは、よいお年を」
　張りのあるその声に一礼すると、彼女はゆっくりと改札に向かっていった。

―完―

【配役】

諏訪内ねじ子……三石琴乃
秋月豪太郎……置鮎龍太郎

浅茅不二子……林原めぐみ
イリア・ビットマン……榊原良子
アンリ・クラインバルト……進藤 尚美

コートの男……肝付兼太

マーサ……池田昌子


【あとがき】

　早いもので、このお話も始まって１年が過ぎました。日曜が来るたびにやさぐれていたねじ子さんも、だいぶ成長したようです。まだ式は挙げないと思うけど、春までに同居ぐらいは始めるかもしれません。その他の面々も、それなりに歳月を過ごしております。ちょっとぷぢ子がいじけていたり、イリアがなにやら企んでいたりと、割とブラックな面を強調してみました。別に仲が悪くなったわけじゃないです。彼女たちはああいった緊張感を保ちながらつきあい続ける、「つかず・離れず」な間柄なのであります。

　今回、ねじ子さんにはどっと落ち込んでもらいました。「大金持ちと結婚するんだったら、私は悩まない」という方もいるでしょうけど、それだと話が盛り上がらないので。ねじ子さん、ごめんなさい。ネットで癒される――メンタリティのリハビリをする、というのは自分自身にも経験がありました。あの時は会社を４ヶ月休んだのかな。独り暮らしでもあったので、その間は草の根ＢＢＳとインターネットに入り浸りました。まだ割引はテレホーダイしかなかったからたいへんでしたが、キーを叩き見知らぬ誰かと意見を交わし日記をつける……という習慣が、自分の中のドロドロしたものをなにか澄んだものに変えていってくれた気がします。もちろんネット社会はいいことばかりじゃないですけど、それは実生活も同じですしね。

　いろいろ悩んだ末、豪太郎さんのママを出してしまいました。結果的に設定を覆すようなことになってしまい、申し訳ありません。最初の案では出てきませんで、彼女の後見人たる初老の女性（元秋月家の家政婦。声・野沢雅子）が、海賊同人誌シンジケートと一戦交えるねじ子達に力を貸す……ちょっとはしゃぎすぎかなと思い、やめにしました。豪ママもあのまま亡くなっていたら救われないよなあ、という気がしてきまして。秋月の家を出た後、（泣く泣く）親権と引き替えに膨大な慰謝料をもらって、南欧あたりでまったりと暮らしていて、たまに即売会のために来日……といった感じの女性をイメージしています。それにしても、正体を明かさないからいいものの、手強いお姑さんだよなあ。

　来年もまったりと、日曜の連載を続けていく予定です。メインのキャラはあんまし増やさないつもりですが、つい最近海老沢部長が出てきました。たぶん彼女は大はしゃぎするはずです。これまでのメンバーともども、よろしくお願いいたします。

２００１年１２月８日　陽の当たる２階で
オードリー羽田

【追記】
　物語の重要なキーになった無期限パスですが、調べてみたら第１回コミックマーケットが７５年。９９９の連載開始が７７年なので本来ならありえないものですが、松本零士がそこからヒントを得た、という可能性も捨て切れません。そんなこと考えてるの、今のところ私だけですけど。