とまらない想い

「所詮は小物ね」
　コスプレ広場の片隅で、美麗（メイリィ）がつぶやいた。
　チャイナドレスのスリットを開くと、ガーター・ホルスターから携帯を抜き出す。
「奥様、こちら美麗。任務、完了ね」
　数インチほどの画面に、真夏のビーチが映し出された。
　デッキチェアでカンパリソーダ片手にくつろぐのは、ねじ子のメル友であり、豪太郎の母である女性――マーサ。
「ご苦労様。どう、雑魚は餌に食いついた？」
「もちろん。私の前でスパイと打ち合わせする様な男、赤子の手をひねるより簡単ね」
「よかった。老婆心もたまには、役に立つわね」
　安心した様子で、マーサ。
　美麗は彼女を後押しするように、報告を続ける。
「私の見立てによれば、確かに体には強い気の流れ、あった。でも、乱れも強かったある。それを正す人、周りにもういない。そこが彼の限界あるね」
「豪太郎にも気をつけてもらわなくちゃね」
「それは心配ないある。ねじ子さんから特別な気、感じるある。それ、会う毎に大きく、やわらかくなっていくある」
「そうなの？」
「まだ足下にも及ばないが、奥様に似てきたあるよ。あの二人、このままずっと一緒なら大丈夫ね」
「不思議なものねえ……まあ、無事でよかったわ。あなたもお疲れさま。旧正月まで、故郷でゆっくりしてらっしゃい」
「謝謝。奥様もいい年、迎えるあるね」
　連絡を終え、美麗は空に目を向ける。
　家路につく人々を見守るように、陽は静かに西に傾いていった。

−終−

（２００３年１２月２７日書き下ろし・４００字×４２頁）

−キャスト−
秋月ねじ子…三石琴乃
秋月豪太郎……置鮎龍太郎
イリア・ビットマン……榊原良子
海老沢真理子……勝生真沙子
篠田……岸尾大輔
草薙匠……堀川りょう
白いＴシャツの男……上田祐司
リチャード・ヤン……伊武雅刀（特別出演）
比須田……茶風林
ニセねじ子……荒木香恵
警備部長…… 玄田哲章
警備員……高橋広樹
美麗……冬馬由実
マーサ……池田昌子