大富豪同人物語：Web連載版　２ｎｄシーズン

――日曜昼下がり。横浜港そばのカフェレストラン「ニルヴァーナ」。海沿いの席で、浮かない顔のぷぢ子とクリス。小声で会話。
ぷぢ子「いや、謝るよ。確かに誘いに乗ったのはこっちだし、年長者だし」
クリス「ぷぢ子さんの所為じゃないですよ。たぶん私めあてですから」
ぷぢ子「ストレートだなあ。義姉（ねえ）さんに似てきたんじゃないの？」
クリス「向こうが私に似てきたんです」
ぷぢ子「いいねえ、そのプライド。おばちゃん応援しちゃうよ？……しかし、いくら即売会ナンパとはいえ、今時ここまでベタな奴らいるとは思わなかったよ」
――二人の向かい側、デニムシャツに身を包んだデブと痩せのオタク男子二人組。ニヤけながら一方的にしゃべり続けている。
デブ（声・檜山修之）「いやー悪いとは思うんだけど、自分が関わった作品のコスプレってついついチェックしちゃうんだ。でも数が多いからたいへんだよ！」
痩せ（声・難波圭一）「そうそう、本当はファンの人たちの憩いの場を邪魔しちゃいけないんだけどね、キミたちすごくキャラのイメージに合っていたから、思わず声をかけちゃったってわけさ！」
デブ「そうだ、今度ファンクラブ主催のお茶会があるんだけど、キミたちもどうかな？次回作の設定とか、見せてあげるよ」
痩せ「まだ未公開のやつとかがあるから、悪いけど内緒でね」
デブ「それにしてもさー、プロデューサーの海老沢って、本っ当にダメだな！これだけ熱心なファンがいるってのに、まるでわかってないんだから！いっぺんとことん話をしてやらないと……あー、愚痴こぼしちゃってごめんねー。僕たちいつも仕事のことで頭がいっぱいでさー。ほんと休む暇がないよ」
痩せ「リラックスしたいと思ってアニメ見たりゲームやったりしてもさ、すぐ『自分だったらどう作る？』って考えちゃうんだよ。まあ職業病だから、仕方ないかもね！」
ぷぢ子＆クリス「……ちょっと、お手洗い行って来ます」
デブ「肩まで浸かってきてね〜なんて、さ！いや失礼失礼、わはははははは！」
痩せ「盗撮に気をつけてね！」
――女子トイレ。無言で壁を蹴り続けるクリス。無言で殴り続けるぷぢ子。五分ほどして。
ぷぢ子「頼み事あるんだけどさ。あんたの兄さん、ゴルゴ呼べなかったっけ？」
クリス「ゴルゴは呼べませんけど、確か自衛隊の習志野空挺団に伝（つて）が」
ぷぢ子「ああ、刃牙の作者が在籍してたとこか」
クリス「コミケ開場前の、殺気だった男子の群に投げ込んだ方がいいかもしれません」
ぷぢ子「それ逆効果かも。むしろ自慢げに作品を語り始めるかも……って、やつらの作品ってなんだ？」
クリス「スタッフだスタッフだってうるさく言うくせに、こんな社名も肩書きもない名刺なんておかしいですよね？」
ぷぢ子「あやしいな……狩るか？どうも声掛けてるの、オレたちだけじゃなさそうだし」
――ドアが開き、ウエイトレス入ってくる。
ウエイトレス「失礼します、清掃チェックです……って、あらま」
ぷぢ子「どうしたんだよ、こんなところで」
クリス「ねじ子さん、今日はパートの日じゃなかった？」
ねじ子「ここ姉妹店なの。夏コミ明けにオープンしたのよ」
ぷぢ子「どうでもいいけどこの店、死ぬほど横浜のイメージに合ってないよ」
ねじ子「私もそう思うんだけど、コスプレカフェが流行だからって、店長の鶴の一声で」
ぷぢ子「孕（はらみ）さん、センスのベクトルがちょっと人と違う方向いてるからなあ……それはともかく、マジでシャレになんねえ奴らがいるんだけどさ」
クリス「海老沢がどうこう言ってるけど、あれってあの海老沢さんだとしたら、本人召還した方がいいかもしれません」
ねじ子「よし、電話してみる。悪いけど適当に話つないでくれない？」
クリス「大丈夫、つながなくても、勝手に向こうが喋ってくれますから」
――席に戻る二人、死ぬほど退屈でフカしまくられな話を小一時間ほど聞かされる。
クリス「ごめんぷぢ子さん、もう限界。やつらグーで殴っていいですか？」
ぷぢ子「オレ様もダメくせえよ…おっと」
ねじ子「お客様、お電話が入っております」
ぷぢ子「誰から？」
ねじ子「ジオテックの海老沢さんからです」
ぷぢ子「はいはい…そう、いま横浜。あと五分で来れる？そりゃありがたい、話をしたい人がいるってさ。うん、じゃあ、ね」
デブ「そ、それじゃあ、僕たちはこれで」
――立ち去ろうとする二人の足下に、トレカが突き刺さる。
ねじ子「お待ちなさい！あなたたちの悪事は、すべてお見通しよ！」
痩せ「なにっ」
ねじ子「調べてみたけど、べつにスタッフでもなんでもないじゃない。スタッフの一人と同人仲間、それも臨時に売り子をやっただけで口を利いたこともないし」
デブ「そこまでやるとは……貴様、ただのウエイトレスさんではないなっ!?」
孕店長（店内マイクで）
「花は気高く美しい……いかなるジャンルの荒波に翻弄されようと、決してカップリングを見失わない一輪の花……奇跡の同人女（おとめ）が、いま華麗に舞う！」
ねじ子「ある時はやんちゃな主人公とクールなライバルの裏設定に身もだえする同人女、またある時はクールな主人公とやんちゃなライバルの裏設定に身もだえする同人女、そしてまたある時はやんちゃなライバルとクールなライバルの裏設定に身もだえする同人女」
クリス「どれも変わらない気がするけど」
ねじ子「しかしてその実体は……ねじ子・フラーッシュ！受（うけ）の光を持つ同人女、キューティーねじ子！あなたの履歴書、変わるわよ？」
デブ＆痩せ「はわわわわ」
ねじ子「まあ、私が手を下すまでもなく、海老沢さんがしっかりとお説教してくれるわけだけど。あ、来たわね」
――まピンクのしつこいフリルつきワンピースに身を包んで、半泣きの海老沢部長（一七五センチ）が縦ロールヘア＋テディベアつきリュックで登場。
ねじ子「あれれ？仕事先からだって聞いたから、スーツだと思ってたのに」
海老沢「うわーん！みんなひどいもの！マリちゃんそんなに意地悪なんかしてないもの、悪くないんだもの！」
クリス「えーと、勝平さんからメールが来てるから読みますね。『ごめんなさい、ゲームショー前のタイトなスケジュールで、部長が例の発作を起こしたままそちらに向かってしまいました。刺激しないよう気をつけつつ、オレンジペコとシフォンココアロールをたっぷり与えればおとなしく眠ると思います。申し訳ありませんが、よろしくお願いします』……ですって」
ぷぢ子「やれやれだぜ」
ねじ子「……いいこと、今度同じ真似をしたらこの人をけしかけるわよ？」
デブ＆痩せ「それだけはご勘弁を……」
クリス「大人ってたいへんですね」
ぷぢ子「まあアレだ、思うに普段の行いがいけないんだよ。いい年して怪人ゾナーのおっかけなんかやってるからさ」
海老沢「高見沢さんの悪口はやめてよーッ！」
ぷぢ子「なんだ、正気に戻ったな。この手があるんじゃん。勝平に教えてやれよ」
クリス「海老沢さんにそんな事を言える英雄が、ぷぢ子さん以外にこの世にいるとは思えません」
ぷぢ子「それもそうだな〜」