オタコン桜

○１　ビッグサイト・冬コミ会場
　自分のスペースで売り子をするぷぢ子とねじ子。
ぷぢ子「（iPodで、サッカー日本代表戦のダイジェストムービーを見ながら）やっぱり俺達、未来を先取りしていたんだよなぁ。高校ン時に俺を『マンガちゃん』呼ばわりして、卒業したあとプロ野球の二軍選手とくっついちゃったのがいたけど、今何してんだろうなぁ」
ねじ子「つーかさぁ、あんた来年早々に式挙げるとか言ってなかった？夏終わってから毎週の様にイベント出てるけど、準備とか大丈夫なの？」
ぷぢ子「ちっちっち。ヤリ納めってやつよ。お前にも覚えがあるだろ？新婚さんの週末が、朝起きて飯食って、どっか出かけただけで終わると思うか？」
ねじ子「あ、なーる」
ぷぢ子「ってことさ……お？」
　雰囲気を察して顔を上げると、一人の男（須田博）がスペースの前に立っている。
ぷぢ子「あ、すみません。ウチは男性の方はお断りしてるんですが……」
須田「……」
　無言のままの須田。しだいに目に涙を浮かべる。
須田「（嗚咽）」
ねじ子「（小声で）ちょっと……知り合い？」
ぷぢ子「んな訳ねえだろ、こんなメンヘラー男なんて。（立ち上がって周りにアピールする）これ、知らない人です！ぜんっぜん、知らない人ですよ！」
ねじ子「ちょっと、あんたの方が怪しくなってるよ」
ぷぢ子「仕方ねえ、スタッフを呼んでくるか」
須田「（やっと泣きやんで）……すみません」
　ねじ子とぷぢ子動きを止め、須田を見つめる。
ぷぢ子「すみませんってさ、そりゃいきなりスペースに押し掛けて泣かれりゃあ、迷惑に決まってんじゃねえかよ」
須田「すみません……」
ぷぢ子「どうした？俺様の名作に感想が言えないくらい感動したのか？っていうか男子禁制なのによくゲットできたな」
須田「ネットオークションで買いました。ぷぢ子さんのblogでサンプルで見て、どうしてもほしくなっちゃって……」
ぷぢ子「オク禁なのに！オク禁なのに！表２にでっかく書いてあるのに！チクショー、これだからインターネットは信用できねえ！」
須田「本当にすみません」
ねじ子「失礼だけどあなたひょっとして、マジでヤオラーな人？」
須田「いえ、その、こちらの本はフリートークが好きなんです。いつもギリギリな感じが漂ってて」
ぷぢ子「確かにいつも締め切りはギリだけどな」
ねじ子「でも、それだけじゃ涙なんか流さないよね」
須田「ええ。実は」
ぷぢ子「実は？」
須田「同人誌読んだり、即売会とか来るの、今年でやめようと思って。今日は見納めのつもりで、こちらまで来たんです。お礼を言おうと持ったんですけど、なんだか気持ちがいっぱいになっちゃって……」
ぷぢ子「まあ、感動してくれるのはありがたいよ。でもそんな期限切ってまで脱オタするのって、なんか理由でもあんの？」
須田「ええ、まあ……」

○２　回想シーン　須田の職場風景
　よくある中小企業のオフィス。
　昼休み。
　ネクタイ姿の須田、自分の机で一人ネットサーフィンをしつつ、コンビニ弁当を食べている。
　パーティションの向こうには、会議室兼用のテーブルと椅子。
　女子社員たちがランチを食べている。
女子社員Ａ「でさ、この前のお見合い、どうだった？」
女子社員Ｂ「それがさー、思いっきりアキバ系のが来ちゃってさー」
女子社員Ｃ「あらら」
女子社員Ｂ「もう話とか全然合わないし盛り上がらないし、疲れちゃったよ」
女子社員Ａ「やっぱりアレ？アニメの話とかしかしなかった？」
女子社員Ｂ「んー、覚えてなーい。つーか、記憶したくなかった。一切合切」
女子社員Ｃ「ま、当然よね」
　話し声を盗み聞いていた須田、アニメ系のＨＰが映っていたモニターの画面を消す。

○３　ふたたび、ぷぢ子のサークルスペース
須田「俺、いや、僕、もうすぐ３０だし、最近、こういうのってあんまり、その、一生続けるのはどうかなとも思ったりして、それで」
ぷぢ子「てめえ、ケンカ売ってんのか！こちとら三十路はとっくに過ぎたよ！来年結婚だよ！でも続けるんだよ！悪いかよ！日本の法律に触れるのかよ！あァ？」
ねじ子「落ち着いてよ」
ぷぢ子「……」
須田「たびたび、すみません」
ねじ子「うーん。人のことだからあまりとやかく言えないけど、そんなに苦しい思いで脱オタしてもさ、急に人生が開けたりはしないんじゃない？」
須田「そうですよねぇ……。でも、この先一人で生きていくのもたいへんだし、だからってこんなオタク男に彼女なんかできないだろうし、そうなると、脱オタして普通っぽくすごせば、ちょっとはチャンスが広がるかなあって」
ねじ子「なんか、自分の頭の中で理屈が完結しちゃってるっていうか、そこまで思い詰めなくても……ちょっと、ぷぢ子何してるの？」
　ぷぢ子、携帯を取り出して。
ぷぢ子「あ、もしもし丈一？え、近くまで来ちゃった？会いたくて？しょーがないなー、ま、この場はねじ子に任せて引き上げるか」
ねじ子「わざとらしい！この人、あんたのファンでしょう。あんたが責任取りなさいよ」
ぷぢ子「やめて！丈一の前で他の男の話はやめて！」
ねじ子「必死だなー、この人は」
ぷぢ子「わかった、私の幸せが憎くて、ぶち壊そうとしているのね！」
ねじ子「えー。そんなささやかな幸せ、壊したところで何になるっていうか」
ぷぢ子「イヤなタイミングでイヤな本音もらしやがって、コノヤロー！！
須田「ああ、喧嘩しないでくださいよ」
　二人で声を揃えて。
ぷぢ子「うるさい！誰のせいだと思ってるんだ！」
ねじ子「うるさい！誰のせいだと思ってるの！」
須田「うう……どうしてこうなんだ。どうせだからいい思い出を作って、心おきなく脱オタしようと思っていたのに……」
　頭を抱える須田。
　それに構わず、背後で口論するねじ子とぷぢ子。
　ホイッスルの音。
　サッカーの審判服姿で、豪太郎が３人に割って入る。
豪太郎「そこ、今度トラブル起こしたらカードだよ」
ねじ子「きゃー、豪太郎さん！」
ぷぢ子「いつもそうだけど、思いがけない人だよなあ」
ねじ子「また、私の本をチェックしに来たの？」
豪太郎「見ない見ない、そういう約束じゃないか。今日はコスプレで一般参加。サッカー本を探しに来たんだよ」
ねじ子「うれしいっ！仕事ができてコミケの送り迎えもしてくれて、その上原稿の中身を詮索しない夫なんて、もういくらだって体、許しちゃう！」
ぷぢ子「許してるだろう、とっくに」
豪太郎「ねじ子さん、またコミケハイだね」
ねじ子「……ごめんなさい」
須田「あのー、おたく、旦那さんなんですか」
豪太郎「ええ」
須田「いいよなあ、腐女子は。普通の人の振りしてれば、結婚できちゃうんだからなあ」
ねじ子「あら、努力もなしに結婚なんかできなくてよ？てよ？」
須田「そうなんですか？」
豪太郎「なんか彼、悩んでるみたいだね」
ぷぢ子「そうだよ豪さん、あんただったら俺達よりはいいアドバイスできんじゃねえの？」

○４　ビッグサイト・西館レストラン
　テーブル席で向かい合う、豪太郎と須田。
豪太郎「なるほど。人生の先を考えて、脱オタを選ぼうとしたってわけか」
須田「そんな、大袈裟なもんじゃないですけど。僕、オタクっていえばオタクですけど、そんなに濃い方じゃないし、漫画やライトノベルのプロになれるとも思えないし、そうなるとこのまま続けるのも何だなあ、と」
豪太郎「いや、偉い偉い。僕も３０になるまでにはもう少し先の事を考えるようになりたいよ」
須田「え、でもアキヅキの社長と中小企業のヒラ社員とじゃあ、格が違いすぎて」
豪太郎「関係ないよ、そんなの」
須田「そうですかねえ」
豪太郎「ただ、たとえ年収が違っても、独身でヒラだろうと、僕がアドバイスできることが一つある」
須田「なんですか」
豪太郎「そうだな、流行りの言葉で言えば『人生変えたかったら、腐女子とつきあえ！』かな」
須田「腐女子と？」
豪太郎「そうだ」

○５　西館１Ｆフロア
　人混みでごったがえすフロア。
　フロアの片隅に立ち、話を続ける豪太郎と須田。
豪太郎「周りからのプレッシャーもあるんじゃないの。脱オタしたいってのは、さ」
須田「ええ、まあ」
豪太郎「同い年の連中は家庭を作る、親は身を固めろとうるさい。そんな環境で趣味に浸ろうとしても『こんな馬鹿みたいな事、やってるのは自分だけ』みたいな気がして、前ほど楽しくならない」
須田「よく、わかりますね」
豪太郎「そういう時期があるんだよ、男には。そんな時、傍に人がいるってことが、どれだけ心強いか」
　豪太郎、ふと遠い目をする。
　同じく目線を遠くに合わせる須田。
　その先には、だらしなく床に座り込み、本を読む腐女子たち。
須田「でも、ああいうのが毎日家にいるっていうのも、結構キツいんじゃないですか」
　豪太郎、携帯を取り出す。
　待ち受け画像、リラックスしすぎたねじ子の、家での姿。
豪太郎「僕の奥さんだよ」
須田「あ、さっきの……すみませんでした」
豪太郎「いいんだよ。出会った頃は、こんな感じで外にも出てたんだから」
須田「本当すか」
豪太郎「だけど、そこがよかったんだよ。僕も休みの日は、心底ぼーっとするのが好きなんだ。ねじ子さんは他の女の人と違って、週末にあそこへ行けあれを買えって指図するタイプじゃなかったんでね。即売会と、漫画を買う時以外は」
須田「はははは」
豪太郎「なんにせよ、価値観が似てるってのは、一緒に過ごす時に重要なファクターだよ」

○６　西２ホール
　女性向けサークルが並ぶホール。
　ゆっくりと通路を歩く二人。
豪太郎「もちろん、腐女子なら誰でもいいって訳じゃない。オタクが一言で括れないように、腐女子もまた一人一人違っている」
須田「わかります」
豪太郎「自分が趣味に打ち込みたい様に、向こうもまた、何もかも放り出して没頭する時がある。それを認められるかどうか」
須田「はい」
豪太郎「特に腐女子さんは、のめり込む時はとことんのめっちゃうからね。でも、それを差し引いても、彼女たちのパーソナリティーは、特筆すべきものがある」
　豪太郎の目線の先、スペースで談笑する腐女子たち。
豪太郎「まず、『コミュニケーション能力』。引き籠もってるなんて、見当違いも甚だしい。メールやblogがポピュラーになる以前から、彼女たちは思ったことを文字や映像に書き留めて、不特定多数に発信していたんだ」
須田「そうなんですか」

○７　ねじ子のスペース
ぷぢ子「（同人誌を広げながら）コイツまた性懲りもなく、ジャンル転んでやがるよ」
ねじ子「死んでいいよね」

○８　西２ホール
豪太郎「まあ、ストレートに物を言い過ぎて争いになるところまで、先取りしていた訳だが……」
須田「はあ」
豪太郎「次のメリット。『好奇心』も、なかなかのものだよ」
須田「好奇心ですか。なんか、素敵な響きですね」
豪太郎「素敵だろ？自分の興味のあることは、どこまでも調べ尽くす。わからないことがあれば、とことん捜し続ける。誰も止められないくらいに」

○９　回想シーン
　夜。豪太郎の自宅。玄関を開けると、ねじ子が大きなトランクに荷造りをしている。
豪太郎「どうしたの。まさか、実家に帰るなんて言い出すんじゃあ」
ねじ子「ちょっとハンブルク行ってくる」
豪太郎「ハンブルク？またどうして」
ねじ子「いま描いてる原稿の舞台なんだけど、どうしてもわからない所があるから」
豪太郎「捜せば写真とか、あるんじゃないのか？」
ねじ子「ダメ！本物見てこないと、描けない！」
豪太郎「そ、そうなの？」
ねじ子「そうなの！」

○１０　西２ホール
豪太郎「まあその時は、成田空港で戻ってきたんだけどね」
須田「すごいですね」
豪太郎「こっちもいい刺激になるよ。で、三番目のメリットはズバリ、『妄想力』だ」
須田「妄想！それなら俺も得意ですよ」
豪太郎「男だって多少なら、妄想くらい思い浮かべる。でもそれはたいがい、自分が主人公であって。彼女たちが凄いのは、他人を主役に据えて、物語を作り上げるところだ」

○１１　回想シーン
　ねじ子、リビングのテレビで天気予報を見ている。
豪太郎「へー、明日、雪なんだ」
ねじ子「うれしそう」
豪太郎「え？明日は朝から出張なんで、飛行機とか止まると困るんだけど……」
ねじ子「この二人、うれしそう」
豪太郎「二人？」
　ねじ子の目線の先、天気図を背景にアナウンサーと気象予報士（ともに男性）が会話を繰り広げている。
予報士「ということで、明日からぐっと冷え込みそうですね」
アナウンサー「朝晩に出かけられる方は、今日の服装にもう一枚、増やした方がよさそうですね」
予報士「そうですね」
　豪太郎、首をひねりながら
豪太郎「悪いけどあんまり、うれしそうに見えないよ？」
ねじ子「目線がね、違うのよ」
豪太郎「目線？」
ねじ子「天気が悪いとね、この二人目を合わせる回数が増えるのよ」
豪太郎「そ、そうなの？」
ねじ子「きっとね、天気が悪いと臨時ニュースがあるかもしれないから、アナウンサーって放送局に泊まりになるでしょ」
豪太郎「まあ、そうかもしれないね」
ねじ子「そしたらこの予報官もいっしょに泊まる約束になってるのよ」
豪太郎「どうして」
ねじ子「一人じゃ心細いから」
豪太郎「いやそれはなんか、飛躍してるっていうか……」
ねじ子「そうなの！この二人はデキてるの！もう五年も夜のニュースでコンビ組んでるのよ、結婚もしないで」
豪太郎「……」
　黙り込む豪太郎をよそに、一人盛り上がっていくねじ子

○１２　西２ホール
須田「なんか、ちょっと近い物を感じるけど、遠いところも感じるような」
豪太郎「まあ、正直僕もついていけないな、って思う時もあるけど」
須田「でも、趣味が似ている女性なら、少しはつきあう可能性が広がるかもしれないですね」
豪太郎「そうだろ？初めから無理だってあきらめずに、チャレンジしてみようよ」
須田「そうですね」
　ぷぢ子とねじ子、後ろから二人の背中をどつく。
豪太郎・須田「あたっ」
　振り返る二人。
　それぞれ黒と白のブラウスを来た、ぷぢ子とねじ子が仁王立ちしている。
ぷぢ子＆ねじ子「（ポーズを取りながら）デュアル・やおいウェーブ！」」
ぷぢ子「攻めの使者・腐女ブラック！」
ねじ子「受けの使者・腐女ホワイト！」
ぷぢ子＆ねじ子「ふたりはプリ腐女！」
豪太郎「（小声で）やっぱり腐女子って、プリティだけどキュアじゃなかったんだ」
ねじ子「さっきから、なんかずいぶん、勝手なこと言ってくれてない？」
ぷぢ子「まさかオレ達腐女子とつきあえば、趣味はやり放題で家事炊事はお任せできちゃうし、その上頼めばハダカも見せてくれる、なんて風に思っちゃいませんか？え？」
豪太郎「いや、そんな」
須田「僕はちょっと思っていました」
　ねじ子とぷぢ子に、頭をはたかれる須田。
ぷぢ子「待て待て待てー！」
ねじ子「そこんとこ、勘違いしてる男子が多くて困るのよね」
ぷぢ子「確かに趣味がいっしょなら、近しくなるチャンスも増えるだろうさ。でもそれは、ドロドロした男女交際の深い沼に浮かぶ、飛び石に過ぎないぞ！」
須田「ううっ（頭を抱える）」
豪太郎「ストレートな物言いだなあ」
ねじ子「ダメ！最初のボタンを掛け違えると、この人達ずっと間違えたままだから！」
ぷぢ子「開場からスペースに押し掛けて、全然関係ないジャンルの話をしまくったり、返事もしてないのに毎日メールを送ってきたり一度話をしたくらいで延々とblogや同人でラブコールされても、こっちは迷惑なだけなんだってば！」
豪太郎「いるの？そんな人」
ねじ子「いるいる。私レベルでもロックオンされたことあるもん」
豪太郎「うわー」
ぷぢ子「そんな調子で腐女子をターゲットに交際とか結婚を考えられても、こっちは非常に迷惑なんだよ！」
須田「で、でも、家事とか手伝いますし、お互いの趣味は尊重していくつもりですよ」
ぷぢ子「尊重じゃない！我慢だ！」
須田「が、我慢ですか」
ぷぢ子「そうだ。たとえばこのねじ子は、今でこそ裕福な暮らしをしているから、イベントの前夜もたいして慌てなくて済むわけだが」
ねじ子「そうじゃなかった頃、どうしてもコピーが間に合わなくって、でもコンビニの画質じゃ我慢できなくって、仕方なくキンコーズまでチャリで走ったことがあります」
ぷぢ子「しかも夜中の三時に」
豪太郎「本当かい？」
ねじ子「あのー、初デートのあとに、映画見に行こうって誘われてたけど、具合が悪いからって断った頃の話」
豪太郎「そんな理由が」
ねじ子「ごめんなさい……でも、我慢できなかったの。あのイベントは、どうしても行きかったの」
ぷぢ子「な？俺達とつきあおうと思ったら、飼育係か介護ヘルパーみたいな気構えがないとダメなんだよ」
ねじ子「いわば天然記念物なのね。私達って」
須田「うーん」
ぷぢ子「それくらいの度胸と覚悟があるんだったら、腐女子とつきあうのも考えてみなよ。ま、生半可な気持ちじゃついていけないのは、別に腐女子に限らないけどなー」
　須田、腕を組んでひとしきり考えたあと、
須田「わかりました。勉強してきます」
　一礼し、ねじ子達の前から去っていく。
豪太郎「……」

○１３　ビッグサイト外
　群衆の中、建物を見上げる須田。
　一礼し、駅へと向かう。

○１４　須田の自宅
　大晦日。
　郊外の一軒家。
　リビングで家族（父、母、妹）との年越しそばを食べる須田。
　テレビを眺める父母。
　すでに食べ終えてソファに寝転がる妹、無言で携帯メールを打っている。
須田「ごちそうさま」
　須田、部屋に戻ろうとする。
　母親、須田の背中越しに
母親「来年はもう少し、大人らしくなってもらわないとねえ」
須田「……」

○１５　須田の自室
　自室に戻った須田。
　壁にはアニメのポスター、枕元や机の上にはフィギュア。
　ベッドに寝ころびながら、冬コミで買った同人誌を読み始める。

○１６　回想シーン・西館での豪太郎との会話

豪太郎「誰かと会って、さよならして一人で帰る週末ってのは、誰にも会わないで過ごす週末より、本当はずっと辛いんだ。いい出逢いや別ればかりじゃない。家まで泣いて帰る日もあるかもしれない。でも、それを越えないと、誰かと過ごす週末は、やってこないんだ」

○１７　須田の自室
　同人誌を顔に載せ、大の字に寝る須田。
　しばらくして起きあがり、机に向かう。
　パソコンの電源を入れると、猛烈な勢いでタブレットのペンを走らせる。

○１８　ねじ子の家
　元日の昼さがり。
　リビングの大画面テレビで、ネットを見ているねじ子。
　その脇で豪太郎、こたつ（おせちが載っている）に入り昼寝中。
ねじ子「年賀メール、来てるよ」
豪太郎「ん……」
　画面、冬コミに撮ったぷぢ子と丈一のコスプレ写真や、現地の城を背景にしたイリアとアンリ王子からの写真が開かれていく。
ねじ子「あ、コミケん時の彼からも来てるね」
豪太郎「お、そうかい」
　豪太郎、起きあがって画面を見る。
ねじ子「アキヅキのblogサービスで、サイト開いたって」
　ねじ子、メール内のアドレスをクリックする。
　ホームページが映る。
豪太郎「本当だ。しかもこれ、プロフェッショナルコースだ。有料なんだよ」
ねじ子「意外に、義理堅い人だったのね」
豪太郎「やっぱり、根が真面目なんだろう。今年は出逢いがあるといいなあ」
ねじ子「へー、彼、漫画描けるんだ」
豪太郎「どんなの、描いてるんだい？」

○１９　大画面テレビの映像（須田のホームページの漫画）
　須田に似た男、即売会でスペースの準備をしている。 そこへ来客。
女Ａ「（いかにも腐女子っぽい格好）あの、ぶしつけでごめんなさい。私でよければ押し掛け売り子、させていただけませんか？」
男「君は？」
女Ａ「前に、こちらの本を買わせていただいた者です。すっごくすっごく感動しちゃって。今日の即売会に出るって聞いて、一日一緒にいたいなー、って思ってたんです」
男「えー、それはありがたいなあ。追加椅子持ってくるから、頼めるかな？」
女Ａ「はい！」
女Ｂ「（和服姿）待たれよ」
男「あなたは？」
女Ｂ「そなたの作品を拝読した者だ。今日は隣で、じっくりと話をさせていただくが、よろしいな？」
男「いや、あいにくと先客が」
女Ｂ「その様な者、放っておけばよろしい」
女Ａ「ちょっとー、後から来て何よ、その態度」
女Ｂ「近づくでない、汚らわしい」
女Ａ「なんですってー！」
　つかみ合いになる二人。
男「ああもう、喧嘩しないでくださいよ」
　金髪碧眼の白人女Ｃ、やってくる。
女Ｃ「（すごい露出した衣装にテンガロンハットとブーツ）ヘイ、エクスキューズミー！このコミックをドロウしたのは、ユー？」
男「イ、イエスです」
女Ｃ「（男に抱きつく）ナイスチューミーチュー！ユー、ミーとマリッジする、オーケー？」
男「い、いきなり何ですか」
女Ｃ「ノープロブレム。ミーはもうホームタウンをゴーンしたから、ジャパンにリブするね！」
女Ａ「冗談じゃないわ、第一のファンは私なのに！」
女Ｂ「ふん、この様な者たちと一緒にされる事自体が迷惑。そなたにはわかっているであろう？」
女Ｃ「オー、ジャパンのガールズ、シチュエーションをアンダスタンしない、困りますね！」
男「ほんとに困ったなあ」
女Ｄ「ダメだよ、ヒロシは今日ボクと一日つきあうんだからね」
男「君は？」
女Ｄ「えへ、ヒロシの一番の愛読者だよ」
女Ａ「なーにが『えへ』よ。そんな外見してて、本当は３０過ぎなんでしょう」
女Ｄ「（ドスの利いた声に変わって）歳の話はするんじゃねえよ！」
女Ｂ「ほっほっほ、図星であろう？」
女Ｃ「イエース、ミソージ過ぎたガールは、ビークワイエット！」
女Ｄ「おめえどこの生まれだよ！」
女Ｃ「オゥ、カンダジンボチョウね」
女Ａ「適当なこと言わないで！」

○２０　ねじ子のリビング
　しばらく画面で話を追っていたねじ子と豪太郎、無言のまま顔を見合わせる。

○２１　須田の自室
　ベッドに寝転がり、窓の外を眺めている須田。
　携帯が鳴り、メールが届く。

○２２　メール画面
「あけましておめでとう。
　めざせモテ系同人作家！（つーかドリームコミック？）

　　　　　　　　　　　　　　　　ねじ子＆豪太郎」

○２３　須田の自室
　メール画面を見て須田、一人静かに笑う。

　　（終）